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わたくしは何も存じません  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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35/51

35.昔の名で呼んだらはっ倒す!

 街を出ていく馬車を見送り、オネエさんはこれ見よがしに大きな溜め息を吐いた。隣には満面の笑みを浮かべる伯父ジーモンがいる。それも手首をしっかり掴まれた状態で。


「汚い手を使って! あたしを誰だと思ってんだい」


「裏の顔役()()()()様だろ? そう怒るなよ。手伝ってくれるだけでいいから、な? ()()()()


「……もう一度でも昔の名を口にしたら、はっ倒すわよ」


「すまん」


 低い地声で凄むオネエさんことバルバラ様に、ジーモンは肩を落とす。幼い頃は可愛い甥だったのに、いつの間にか自称姪になっていた。家の没落が大きく響いているのだろうが、それでも有能さは変わらない。彼……彼女の文官としての能力は素晴らしかった。


「手伝ったら、本当にロイスナー公爵領の裏を仕切らせてくれるんでしょうね」


「間違いない、バーレ伯爵のお墨付きだ」


 アウグストは深く考えずに許可を出したので、実際のところは危うい。だが何にしろ、街が大きくなれば裏社会が形成される。今までもそれに近い組織はいくつかあったが、小さく弱かった。まとめ上げる人物がいなかったのだ。そこに王都で仕切ってきたバルバラが入れば、あっという間に編成されてしまう。


 放置すれば闇は深くなり、手が付けられなくなる。有能な領主は危険を理解し、危うい刃であっても使いこなす覚悟が求められた。兄ならその器に足りるとアウグストは考えたのだ。纏めるなら、後のことを兄に丸投げしたとも言える。


 バルバラのカリスマ性と面倒見の良さ、文官時代の有能な頭脳を生かす。その場として、ジーモンが用意したのは横領犯の捜索だった。探し物はバルバラの得意分野だ。


「……ふん、そのくらいなら何とかなりそう。というか、今まで放置しすぎよ。お陰で簡単に尻尾がつかめるわ。ただ、手足が足りない」


 放置した期間が長いほど、横領の手口は杜撰になる。最初はバレないよう慎重に行われ、証拠も隠滅したり誰かに罪を擦り付ける準備をしたり、手が込んだ方法が主流だ。ところが一年、二年と経つうちに「バレない」と確信を持つのが人間だった。


 安心すれば、今までの手順で無駄と考える部分を省き始める。証拠隠滅が杜撰になったり、身代わりを用意していなかったり。気づけば手垢だらけの証拠が残される状態になる。だがバルバラの手足となる娼婦が消え、彼女らが操る男達も利用できなかった。


 王都は人口が半減している。外に身寄りや親戚があれば、人はすぐに頼った。ツテがない者ばかり残され、天を仰いで嘆くばかり。この状況で、まだ犯人は残っているのか。


「横領した連中は逃げただろうが、尻尾から手繰り寄せるのは俺がやる。掴める状態まで引っ張るのが、バルバラの仕事だ」


「ふーん。まあいいわ。何とかしてあげる」


 両親も亡くなったバルバラにとって、行方がつかめる唯一の親族がジーモンだった。だから報酬なしでも一度くらいは協力してもいい。その程度の思いで足を踏み込み、数か月でバルバラは盛大に後悔した。一度掴んだ獲物を、ジーモンが解放するはずがない。伯父の性格を読み誤ったことに。

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― 新着の感想 ―
息をする様に貧乏クジのお裾分けをやってのけてこその貧乏クジ担当。実に鮮やかなお手並みですw
オネエさん、逃げそびれてしまった…。そして、捕まり続ける事にwまあ、信頼出来る?身内なら、良い…のかな?
オネエさま(性別:アルミン)
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