表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたくしは何も存じません  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/50

32.森の香りを楽しむ休日

 穏やかな日差しを浴びながら、林の中を進む。下生えを刈って整えた人工的な小道は、快適だった。ケヴィンとカールの前を数頭の馬が走り、騎士が先行する。後ろには騎士不在の馬もいた。群れで行動する馬は、勝手にいなくなる心配が少ない。加えて、軍馬は前を走る群れに同行するよう訓練を受けていた。


 突然視界が開ける。泉が眩しいくらい光を弾いた。


「うわっ、眩しい」


 手で顔を覆ったガブリエルの声に、ケヴィンが「もう大丈夫だぞ」と声を掛ける。そっと指をずらせば、馬体は横を向いていた。左側に広がる泉の水は透き通り、木々の緑を映す。緑になった縁から入ると水色が広がり、さらに中央は青く吸い込まれそうな色をしていた。


「綺麗」


 見惚れてぽつりと呟いたガブリエルは、馬を下りたケヴィンに抱えられて地に足をつける。必死にしがみついたラファエルも、後ろで「すげぇ」と声を上げた。ぽんと頭をカールに叩かれる。


「俺らの口調を真似るな。伯母様に叱られるのは、俺だぞ」


 兄なのでカールが叱られることが多い。隣で殊勝な振りをするケヴィンが言い出した悪戯でも、やはりカールが叱られた。母親を早くに亡くしたため、二人とも騎士団に放り込まれて育っている。


 周囲に男ばかり、それも粗野な連中がほとんどだ。貴族らしい立ち居振る舞いより先に、平民の口の悪さと手の早さが身についた。騎士団の中では浮かないが、公爵夫妻に注意されるのは仕方ない。カールはラファエルの頭をぐりぐりと押した。


「やめろってぇ!」


「だから、上品な言葉使えっての!」


 兄弟のようなやり取りに、ガブリエルがくすくす笑い出した。姉である彼女は良く知っている。弟ラファエルは、カールやケヴィンに憧れている。叔父のアウグストに憧れた延長で、年の近い二人を兄のように慕っていた。だから真似をしたくなるのだろう。


「ラファエル、魚がいるわ」


「え? 本当ですか、姉様。いま行きます」


 言葉遣い、直ったわね。気づいたのはガブリエルだけでなく、カールが額を押さえて空を仰ぐ。ぶつぶつと口に出す文句は「やればできるくせに」とか「猫被りやがって」とか。本気で怒っていないとわかるから、ラファエルは聞こえない振りをした。


 この泉は、どんな過酷な夏でも涸れることがない。国境を兼ねた山脈の雪解け水があふれ出ると言われてきた。ロイスナー公爵家がこの地に根を張ってすぐ、この泉が現れたと話す老人もいる。領地を潤す泉の水を、馬達が美味しそうに味わった。


 姉弟は泉を覗き込み、あっちのが大きい、色が綺麗と盛り上がる。カールとケヴィンも休憩用の布を敷いて、そこへ寝転んだ。騎士達も思い思いに休憩に入る。ガブリエル達も従兄に駆け寄り、その隣に転がった。見上げる空は遠くて眩しい。目を閉じて、深呼吸すると森の香りが胸を満たした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
いいねぇ、平穏だねぇ……(王都方面のアレコレから目を反らしつつ
猫作者さんのトイレを済ませ、小人は馬と共に寝転がります。 自然最高!!幼なじみの小人伯爵令嬢を思い出します。 猫作者さんと会わせたら、気が合いそうです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ