315.負の連鎖を断ち切る者
このようなはずではなかった。フィンケ伯爵家ライナーは頭を抱える。ウテシュ王家が呪われているのは、誰もが知る事実だった。他国にもその話は漏れている。だから口にしても問題ないと、そう考えた。
事実、先代王は弟ローマン殿下の噂に動かなかった。そこに思惑があったかどうかは知らない。だが、各貴族家はローマン殿下を腫れ物のように扱った。それで罰を与えられた家はない。
次の世代となる新王テオパルト陛下の、双子の弟殿下はやはり呪われた存在だった。特徴的なのは、やたらと頭が良いこと。回転が速く物事を呑み込み、それでいてきちんとした方向へ使わない。誰かの足を引っ張ることを好み、執着した相手を不幸にするのだ。
そんな輩に娘エマが近づかないように、つい口にした一言。それをエマはしっかりと胸に刻んだ。ともに学ぶ友人、オルフ子爵令嬢グレーテと分かち合うほどに。互いに顔を合わせては、悪口で盛り上がっていた。そして、ライナーはそれを咎めない。
悪いことだと思っていなかった。今の王家が存続しているのは、呪われた王子や王女以外は真面だからだ。国を傾けることもなく、大きな失態もない。ゆえに国は存続する。呪いの双子に悪意を集中させるからこそ、貴族からの不満も出にくかった。
ここに呪いの真相がある。
呪いと最初に言い出したのは誰か。王族に呪われた存在があれば、誰が得をするのか。逆方向から考えればたどり着く答えだった。
数世代前の平凡な王は、優秀な異母弟を「呪いの子」と貶めた。庶子であることを理由に、正当な血筋ではないと言い放つ。その言葉は独り歩きした。次の世代でも異母妹を同じように「呪いの子」と称して忌み嫌う。
きちんとした理由を知る高位貴族と、呪いの単語だけを聞きかじった下位貴族の間で差が生まれた。呪いの単語から連想される悪いイメージが膨らみ、親が理解できないほど優秀な子を迫害し始める。
ウテシュ王家には、かなりの確率で有能すぎる子が生まれた。本来は優性遺伝として尊ばれる性質だが、呪いの影響で悪い意味に受け取られる。元が賢いだけに、嫌われている事実を認識した子は距離を置いた。それでも相手が踏み込めば、敵対する。
証拠を残さず相手を蹴落とすくらいの芸当、賢い子らには簡単だった。この報復行為が、呪いの所為であると膨らんで育つ。人の悪意に際限はなく、代々受け継がれてきた。その連鎖を断ち切ったのが、双子の世代だ。
兄テオパルトは弟達を受け入れ愛し、兄と友人の真っすぐな愛情を得て双子は負の連鎖から抜け出した。抜け出せずに嵌ったのは、真実を見抜けない貴族のみ。曇った目に映った景色は、そのまま己に返ってきた。
フィンケ伯爵家は、その次の代で直系が途絶えた。同じくオルフ子爵家も断絶する。しかし、この出来事は「自業自得」とされ、「双子王子の呪いのせい」として伝わることはなかった。




