25.増え続ける謎に叫びたくなる
王都の商店が一斉に店じまいを始めた。その連絡は、誰もが予想した話だった。『前回』を知っていれば、王族への不信が先に立つ。国王が寝込んでいたかどうかは、民には関係なかった。無実のロイスナー公爵家が、冤罪で処刑された事実だけが広がっていく。
自分達もいずれ殺されるのでは? そう考えた一部の貴族が領地へ引き揚げ始めた。続いたのは、貴族の庇護を受ける商会だ。数か国を旅する大商会も、他国の支店へ財産や商品を移動させ始めた。
「税金の軽減だ。中間で抜かれていた分を、そっくり返すと言え」
商人達を引き留めるための政策を打ち出す。グスタフ王の命令で、宰相ヤンが指示を発した。財務を担当するボルマン子爵が亡くなったことで空いた椅子を、王弟イザークが埋める。計算に強いイザークの参加で、ひとまず政は動き出した。
ほっとしながら、バーレ伯爵アウグストは犯人捜しに乗り出す。毒殺の範囲を調べるため、王宮に残っていた毒見達が残ったスープを確認した。匂いや色で判別できない場合、口に含んで吐き出す方法で作業は進められた。これに関しては専門家が必要な分野だ。
「国王陛下を含む、全員のスープから同じ毒が発見されました」
キノコから抽出された毒を濃縮せずに混ぜた。スープ皿に盛られた量の半分も飲めば、致死量に達するとの見解が出る。つまり、あの監禁状態の重鎮すべてを片付けようとした人物がいたのか。ぞっと背筋が寒くなるアウグストだが、副官アンテス子爵ヴィリは冷静だった。
「団長、まだ絞れませんね」
顔を突き合わせた騎士からも、様々な意見が出ている。全員を殺そうとした説、一人を狙ったがカモフラージュで全員に盛った説、どの器が誰に届くかわからずすべて混入させた説、かく乱を狙っただけで誰が死んでも構わなかった説。他にも微妙に違う説が並んだ。中には誰も飲まないと踏んだ説もある。
「結局、毒を盛った人物の目的は不明のままか」
混乱が深まっただけのようだが、少なくとも人の命を軽視する相手だという覚悟はできた。アウグストは騎士達にさらなる証拠集めを要請する。そこで、思わぬ言葉が聞こえた。
「そういえば……客間の備品は基本的に全部同じと聞きましたが、片付けに来た侍従が奇妙なことを言っておりまして」
財務大臣だったボルマン子爵が使った部屋を片付ける際、侍従が首を傾げていたらしい。というのも、机に備え付けのペンに使用の形跡があり……便箋も減っている。だが、その便箋が見当たらないと。
「捨てたのではないか?」
書き損じただけだろう。騎士は侍従にそう告げたところ、空のゴミ箱を見せられた。死体が見つかってから、部屋は封鎖された。だとしたら誰も便箋を持ち出していない。にもかかわらず、便箋がないとしたら……?
「持ち去られた?」
誰が、いつ、何の目的で? さらに増えた謎に、アウグストは乱暴な所作で髪を乱した。
「くそっ!! こういうのは、俺の苦手な分野なんだよ!」




