180.一人足りない気がする
騎士三人で四人を撃退した形だが、一人は元々ケガをしていたらしい。そのため、ほぼ一対一の戦いだった。そうなれば、騎士は強い。何かを守って戦うことに特化した彼らは、互いに背を預け合う形で誘拐犯と対峙した。
一瞬とは言えないが、制圧までの時間はかなり早い。逃げられないよう足を折ったと報告を受けた。膝の下、脛を剣の鞘で叩き折ったようだ。捕らえた賊が多い場合に、騎士団でよく使われる方法だった。綺麗に折れていれば、回復も早い。
「よくやってくれた」
苦労を労いながら、呻く四人を見下ろす。ガブリエルを抱いて両手を塞ぐアウグストの視線は、湖の水温より冷たかった。馬車がないので、ガブリエルを寝かせる場所がない。しばらく抱いているつもりだった。
女神の加護で守られたとはいえ、助けた時点で通常の流れに戻っている。濡れた体は冷えていくし、アウグストも肌寒さを感じていた。筋肉に覆われたアウグストの体温が高いとはいえ、濡れた状態で風が体温を奪っていく。ガブリエルを守るように包んだアウグストに、騎士達の上着が提供された。
「すまん、助かる」
素直に借りて、膝をついた。借りた上着でガブリエルを包み、そっと横たえる。がたがたと震えるガブリエルを、一刻も早く温めてやりたい。と同時に、この場にいる実行犯への腹立たしさに頭が沸騰するようだった。
全員斬り殺したいが、エッカルトが怒るだろう。アウグストでもそのくらいの考えは回った。実行犯の後ろに誰かがいる。そう考えるのが普通だった。アードラー王国訛りの男達の捕縛を騎士に任せ、アウグストが再びガブリエルを抱き起そうとしたとき……。
蹄の音が聞こえた。数頭単位ではなく、軽く小隊程度の人数がいる。二十頭前後か。下流側から現れた一行は、見慣れた騎士服を纏う数名が先頭にいた。シェンデル公爵家の騎士服だ。その後ろに別の貴族家から派遣されたと思われる騎士が続く。
最後に街の衛兵らしき十名ほどが現れ、捕縛用の縄を手に駆けてきた。挨拶もそこそこに、呻く実行犯四人を拘束する。追ってきた騎士が毛布を取り出した。馬の背に括り付けて運んだ毛布とローブは、複数あった。クラーラの進言で持ってきたらしい。
「助かった」
受け取って毛布で包み直す。ガブリエルの震えはまだ収まらないが、唇の色は少し回復したように見える。騎士服はそれぞれに回収され、アウグストもローブを羽織って寒さをしのいだ。
「この四人ですべてですか?」
確認されて頷こうとし、違和感を覚える。四頭の馬、ガブリエルを含め二人乗りと思われる二頭、数が合わない。
「いや、もう一人いた可能性がある」
アウグストの指摘で、周囲の大捜索が始まった。馬を置いて徒歩で移動したなら、後を追うのは大変だ。それでも草の踏まれた跡がないか、騎士と衛兵が湖の上流側を中心に調べた。




