178.追跡の果て
走らせた先で、馬の蹄の跡を見つける。一度降りて、しっかり確認した。馬の蹄を守る蹄鉄は、個々に特徴がある。手作りで一つずつ、馬の蹄の形に合わせて作られるためだ。その形を数えたアウグストは、四頭と判断した。
「四人以上か」
蹄の沈み込みから、二頭は二人乗りの可能性があった。片方は連れ去られたガブリエルを乗せた可能性があるとして、もう一頭はなぜ二人乗りなのか。アウグストは考えることを放棄した。もともと、こういった考察は部下のヴィリに丸投げしてきたのだ。今さら得意になるはずもない。
考えるのは助けてからだ。追ってきた騎士の数は三人だった。ぎりぎりだが、時間がない。あまり遅くなれば、ガブリエルの名誉が傷つく。令嬢である以上、無事でも救出に時間がかかるだけで疑われた。そんな不名誉を、ロイスナー公女に負わせるわけにいかない。アウグストの決断は早かった。
「敵は四頭の馬で逃走。一部、二人乗りの可能性がある」
馬に飛び乗りながら、騎士達に声をかけた。うち一人が「途中で応援を要請しました」と報告する。すれ違った別の貴族家の騎士に、伝言を頼んだらしい。当てにするのは危険だが「よくやった」と褒めたアウグストは、馬首を森へ向けた。
人の手が入っていない森は、木々が鬱蒼としている。つまり、木の枝が折れていたり広くなったりしている方角に逃げた、と考えて間違いない。森の中は目撃者が減るが、森の木々自体が行く先を教えてくれた。
嫌がる馬を進める。走らせれば危険なため、速足程度が限界だった。人が走るよりは速い。不自然に折れた枝を見つけては、そちらへ入っていく。少しすると、馬の嘶きが聞こえた。後ろ手で速度を落とすよう合図を送り、アウグストは馬を下りた。
明るくなった視界の先、ひらけた場所が現れる。どうやら川が作り出した湖があるようだ。上流から流れ込み、下流へ抜けていた。アウグストのいる位置は、下流側に当たる。湖畔に四頭の馬がいた。乗っている者はいない。
焦る気持ちを押し込め、アウグストは深呼吸した。大丈夫だ、間に合う。自分に言い聞かせ、上流側へ目を向けた。
「っ!」
声が出そうになり、強く唇を噛んだアウグストは目を見開いた。湖の中央、一人の少女が浮かんでいる。慌てふためいた様子で、上流側から手を伸ばす数人が見えた。
「あいつらを確保。殺すな」
頷いた三人の騎士が、森の中を回り込む。邪魔になるため、馬はすべて繋いでいった。徒歩で回り込む様子を目で測る。速度を計算しながら、革鎧を脱いだ。
おそらく湖の中央に浮いているのは、ガブリエルだ。助けるには泳ぐ必要がある。アウグストは覚悟を決めて飛び出した。




