176.その閃きは女神の助けか
「何をしてっ! ……いや、いい」
何をしていたと怒鳴り込んだアウグストは、ぼろぼろの状態の騎士達に眉根を寄せた。彼らに状況を確認しなくては、犯人の目的も分からない。天使であるガブリエルは女神アルティナ様の加護がある。だから傷つけられることはないはず。
そう思いたかったが、アウグストには一つ懸念もあった。『前回』の神託が下りたとき、あの時点でガブリエルはすでに天使だった。にもかかわらず、望まぬ婚約を強いられ殺されたのだ。もしかしたら、また命を奪われるような危機が来なければ、女神様は動かないのではないか。
不安がどっと押し寄せる。
「申し訳ございません……後ろから、襲われまして」
一人は動けず、意識もまだ朦朧としている。同僚の騎士が必死に説明を始めた。彼も気が急いているため、声が震えている。頭に巻かれた白い包帯には血が滲んでいた。
「質問する。順番に答えてくれ」
彼に語らせるより、聞きたい部分を尋ねたほうが早い。アウグストの判断は結果的に正しかった。混乱し、申し訳なさでいっぱいの騎士は言葉が出てこない。謝罪すると言い訳が生まれ、言い訳した事実にまた謝罪する。
「相手は何人だ?」
「少なくとも三人以上でした」
促されて二度の深呼吸をした騎士が、少し落ち着いて返す。フードを目深に被った二人がガブリエルを連れ去ろうとし、柄に手をかけた自分が後ろから殴られ倒れた。痛みに耐えて身を起こしたところで、隣に倒れた同僚に気づく。
倒れ方が悪かったか、大量に出血していたらしい。運ばれて治療を受けて初めて、後ろからナイフで脇腹も刺されていたと知った。そこまで語り、騎士は一つ大きく息を吐いた。吐いた分だけ息を吸い、眉根を寄せたアウグストに頭を下げる。
「公女殿下をお守りできず……」
「それはあとだ。特徴を教えてくれ」
言葉を発したか、どこかの国の訛りはないか。姿かたち、身長、体形、髪色……なんでもいいと詰められ、騎士はしばらく視線を泳がせた。考え事をしながら天井へ目をやり、はっとした顔で口を開く。
「そういえば! 言葉が少し……同僚のアレクに似た訛りで……。あいつはアードラー王国の出身だった!」
同僚と同じ訛りがあった。「引き揚げろ」と叫んだ男の声を思い出す。わずかに語尾が上がる、癖のような小さな違いだ。後ろの男はこの国の出身だろう。
そこまで聞いて、アウグストは表情を険しくする。アードラー王国の関係者で、元王太子の婚約者に危害を加えそうな相手。心当たりがありすぎて、浮かんだ数人の顔を思い出す。その途中で、先日見かけた男が頭をよぎった。
アウグストだけではなく、ガブリエルも見た気がすると首を傾げた。つまり二人とも見覚えがあるのに、所属や肩書き、名前も思い出せない? そこにヒントがある、とアウグストは己の勘を信じた。これこそが女神の助けであると疑わない。
「早く治して捜索に加わってくれ」
まだベッドから起きられない二人の騎士に挨拶し、部屋を出て大股で歩いた。




