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わたくしは何も存じません  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく


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168/178

168.そちらの作法も心得ておりましてよ?

 孫娘に見送られたシェンデル公爵夫妻は、宿が小さくなる頃……笑顔を変化させた。孫を愛する幸せそうな老夫婦から、このゼークト王国の権力者である公爵夫妻の顔へ。その変化は表面上だけではない。


「あなた、どうなさるの?」


 直球で尋ねるクラーラへ、エッカルトは静かな口調で切り出した。直情的に見える普段の顔が嘘のように、淡々としている。表裏一体、どちらの顔も嘘ではなかった。ただ使い分ける相手と場面がある。


「まずはテンツラー男爵家からだ。それからフィンケ子爵だな」


 騒動の始まりは、テンツラー男爵家三男ハイモが起こした飲食店での騒動だ。彼がメルテンス子爵家の乗っ取りを企み、一人娘の婚約者に収まった。ここまでは貴族社会なら、あり得る話だ。跡取り息子がいない病弱な子爵が、男爵家の継承権がない令息に跡を任せる。


 子爵夫人となるソフィーが子を産めば、直系の血は残りメルテンス子爵家は存続するだろう。だが、ソフィーを売り払って、彼女の振りをする愛人を引き入れるとなれば話が変わる。メルテンス子爵家の血は絶え、財産も領地も赤の他人に奪われる形だった。


 これは許されない反逆行為だ。貴族とは、その血筋がもっとも重要視される。誰の血を引き、誰の子であるか。祖先にどんな功績の者がいたか。貴族を貴族たらしめる誇りは、正当な血筋の上に成り立つ。その血を断絶しようとしたのだ。


 王家もこの事件を重視していた。返信の中で、王家代理の裁判権をエッカルトに与えるとまで記してきた。ただのお家騒動ではなく、貴族制度が崩壊しかねない重大事件として位置づけられている。


 宰相が派遣した裁判官や拷問に慣れた部隊も到着し、ここからが本番だった。リュディガー国王の怒りは国を動かし、司法を奮い立たせる。正義は時の権力者によって変化するが、王制のゼークト王国にとって貴族制度の崩壊を招く騒動は、悪そのものだった。


 メルテンス子爵家乗っ取りを計画したハイモ・テンツラー。計画を知っていて無言を通したテンツラー男爵。計画に参加してソフィーを買い取ろうとしたフィンケ子爵。全員を地下牢に捕らえている。専門の拷問官が詳細を吐かせている頃だ。


「クラーラは馬車で待つように」


 厳格な公爵閣下の口振りで止めるも、クラーラは満面の笑みでエッカルトに反論した。


「何を仰るやら。以前は蛇に悲鳴を上げた御仁が偉そうに……私はこういった方面の作法も心得ておりましてよ?」


 にやりと笑う顔は、孫を可愛がる祖母ではない。過去の夜会で、言い寄った無礼な男を拳で粛清した女傑の風格があった。置いていくのは無理そうだ。早々に諦めたエッカルトは「それで深紅のスカートなのか」と呟いた。


 孫娘が「薔薇みたい」と評した美しい絹は、おそらく返り血を気づかせない小道具だ。やれやれと首を横に振るエッカルトに、クラーラはぐさりと釘を刺した。


「私を選んだのはあなたですわ」

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― 新着の感想 ―
そりゃーガッチガチの身分社会で男爵家の三男坊ごときが子爵家の乗っ取り、つまり「簒奪」を図った、なんて制度に対する反逆に他ならない訳で…… 本人と親の処刑は確定だし、下手したら関わってない一族郎党まで連…
 頼もし過ぎィ…:(´;ω;`):ブルブル
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