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わたくしは何も存じません  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!


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16/26

16.食い違う主張が示す大きな嘘

 斬りかかろうとした肉屋の主人を、大臣達が押さえにかかる。といっても、文官中心だ。腰に剣を下げている者はなく、本や椅子を武器に立ち向おうとした。止めようと声を張り上げたのは、国王グスタフ自身だった。


「やめよ! 誰も傷ついてはならん。わしの命一つで済むなら差し出そう」


「王太子はどこに隠した!」


「あの阿婆擦(あばず)れ女もいないぞ」


 殊勝に告げた国王へ向けられたのは、元凶二人の行方を尋ねる声だった。肉屋の主人は、同行した民衆に宥められて刃を下げる。だが威嚇のため、握った包丁は離さなかった。一部貴族の横暴な振る舞いを知る国民は、手にした武器を護身用と考えている。その様子に、グスタフは項垂れた。


 民の税を軽減し、暮らしやすい国を目指した。妻と何度も話し合い、目指した未来は明るい絵図だったはず。いつから狂ったのか。実務に追われて、書類処理で一日が終わっていく。民の暮らしを目にすることなく、机の上で数字と対峙した。


 直接、民の暮らしを見るべきだった。貴族の不正を見つけ、不当に税を上げる者らを処分する。出来るのは、貴族の頂点に立つ王だけだったのに。


「陛下、反省はいつでもできます。今は民の要求を聞きましょう」


 宰相ヤンの進言に、グスタフは深呼吸して顔を上げた。見つめ返す民の表情は険しく、衣服や痩せた腕から生活の苦しさが見える。不正を暴く決意をした王の隣で、宰相も眉をひそめた。これほど民が困窮していると、知らなかったのだ。


 目にした彼らの体は臭う。気を遣う余裕がないのだ。王妃が生きていた頃、宰相は視察に同行した経験がある。孤児院への慰問が主目的だったが、街を歩いて民の生活も確かめた。その頃は人々の表情は明るく、笑いが満ちていた。高価でなくとも洗濯された身綺麗な民が、ごく普通にいたのだ。


 あれから十年余り。国の税収は増えていないのに、何が起きている? むしろ、税率は下げたはずだ。公共事業や慈善活動への支出を増やし、財政は収支がぎりぎりの状態だった。民が困窮する理由がわからない。


「国王様か? あんたらが贅沢な生活をする金のために、俺らがどれだけ苦しんだか……」


「待ってください。我々は税を下げ、公共事業を増やしたはずです」


 ヤンが遮った言葉に、民衆がざわりと揺れた。隣の者と顔を見合わせ、首を傾げたり横に振ったり。どちらも肯定の仕草ではなかった。きょとんとしたのは民だけでなく、大臣達も同じだ。


「嘘だ」


 後ろのほうで一人の男が声を張り上げた。周囲からも「そんなはずはない」「税は毎年上がっている」と聞こえ始める。再び刃をかざして、嘘をつく貴族を排除しようとする空気が生まれる。混乱した状況に、飛び込んだのは……騎士団長バーレ伯爵だった。


「この場は預かる! 必ず公正な裁きを受けさせるから、一度引いてくれ」


「あんたも貴族か?!」


 嘘をつく貴族など信じられるか! そう突き付ける民衆へ、バーレ伯爵は淡々と告げた。


「女神様のお怒りはもっともだ。この中に処刑の記憶を持つ者がいれば、思い出してほしい。俺は騎士団長バーレ伯爵アウグストだ。喉を潰され、両手足を壊された当事者の一人だ」


 処刑を待つ身だった。兄の一家が次々と殺されていくのを目の当たりにして、狂いそうになりながら女神の慈悲を乞うた。アウグストの叫んだ内容に、グスタフは目を見開く。まさか、これほど近くにさらなる被害者がいたとは……。我が子の為した罪の大きさに震えた。


「あたし、知ってる……この人……あの場所に、いた」


 掠れた声で訴えた女性は、泣きながら隣の夫に支えられる。他の声も上がったことで、民衆は凶事に走る寸前で落ち着き始めた。あの処刑の被害者がいる。彼の言葉なら、少しくらいは信じてもいいのではないか? その雰囲気は、じわじわと広がり始めた。

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― 新着の感想 ―
王が死んでたのが知られてない?にしても、王はやっぱ無能だ!
ギリギリセーフ。猫作者さんのセクシーポーズが間に合いました。
とりあえず肉屋の旦那はコロそう(私怨)
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