138.大いなる試練となるか
細い街道しかないことで、周辺の街は緊急事態に備えてきた。どちらの街も、異常を知らせるための狼煙を用意している。崩れて通れなくなった場合、復旧までに数ヶ月を要することもあった。通信手段として、狼煙が便利なのだ。
連れてこられた農夫の一人が、決められた通りに狼煙を上げる。煮炊き用に作られた臨時の竈の傍で、薬草を焚べた。もくもくと立ち上がる狼煙の色は、やや青白い。臭いに咳き込みながら、農夫は鍬を手に取った。
狼煙の元を離れ、街道の掘り起こしに参加する。大きな岩は梃子を利用して転がし、人一人が通れる幅を作った。時間はかかるが、周囲が崩れないよう木材で簡易的な壁を立てる。これにより、二次被害が防げた。
まさに先人の知恵、急がば回れ。 過去に起きた事故や二次被害の記録は、彼らに受け継がれていた。 王族の命が懸かっているため、普段より速度優先にはなった。だが、最低限の安全確保は行われている。
確実に進む一行が瓦礫を突破するまで、あと二日。そんな事情を知らないテオパルトは、決断を迫られていた。貴重な食糧はすべて一箇所に集めて管理する。幸いなことに、水だけは確保できている。
崖が崩れたことで、ちょろちょろと水が溢れ出ていた。進行方向へ向かって左側の崖の上に、湖か川があるのだろう。
「王太子殿下、水量が増えているようです」
三日間を水と僅かな菓子で過ごした。国境の街で、弟に強請られるまま購入した菓子が役立っている。ちょろちょろと地面を濡らす程度だった水を、水筒に集めて溜めていく。作業を行っていた騎士の声は、緊張が滲んでいた。
テオパルトも、その危機感を正しく受け取る。過去の水害の二次被害を思い出したのだ。大雨による洪水が起きた集落の復旧作業中に、上流で詰まった木材ダムが決壊して流れ込んだ。住民の捜索や復旧活動に従事する者に、大きな被害があった。
「水が濁ったら、すぐに叫んでくれ。夜中でも構わない」
今はまだ澄んだ水だが、増える水量に濁った水が混じれば、また崩れる可能性が高い。馬車を捨てて、反対側の崖をよじ登る必要があるかもしれない。
緊急時の対応を 騎士に徹底し、弟達にも同様に説明した。ネロの熱は下がり始めたが、まだ無理はできない。いざとなれば、自ら背負って崖を登る。テオパルトは覚悟を決めていた。
国を揺るがす騒動を起こすとしても、双子は弟だ。今回のように面倒を押し付けられるかもしれない。それでも、テオパルトは双子を見捨てないと決めた。双子を犠牲にすれば、己の治世が安定するとしても……兄弟として生まれたのだ。
兄として弟達を導く。守るのが年長者の役割だ。一度腹が決まれば、迷いは二度と浮かんでこなかった。すっきりした気分で夜空を仰ぐ。
大丈夫だ。 王になるべき男なら、どんな 危機も乗り切って生き残る! しっかりしたテオパルトの態度と指示は、騎士達の士気を高く保った。
「明日、もう少し掘ってみよう」
そんな前向きな意見が出るほどに、騎士達は前向きだった。




