137.見捨てるには近くて早い
一番早く異変に気づいたのは、王太子テオパルトより先行した商会の一行だった。国境近くの街を出立する商人は、 王家に茶葉を納入することもある。そのため、王家の旗を知っていた。
隣国ゼークト王国との国境を越える騎士の一行は、馬車を護衛している。カペル共和国で商談を終えた彼は、雑談として情報を得ていた。ウテシュ王国の双子王子のどちらかが、ゼークト王国の末姫と見合いをする。情報は 商売の成功に直結する。
祝い事があれば、高価な宝飾品や絹の需要が高まるだろう。そう見越して、様々な品の買い付けに手を出した。今後の利益を夢見て、ほくほくしながら国境を越えた彼が、ウテシュ王家の旗を見間違うはずがない。
王太子を示す金色の穂先、双子王子それぞれを示す赤と青の装飾。すべてが揃った国旗を見たのは、初めてだった。街を出る彼は、休憩するテオパルト達より早く街道を進む。道の上に小石が多く、荷馬車が揺れる。
「いつもより道が荒れているな」
文句を言いながら、隣街に入った。荒れた道で傷んだ車輪を交換し、疲れた馬を休ませる。
一泊目は気にならなかった。二泊目で首を傾げる。三日目の朝、衛兵の詰所へ飛び込んだ。
「もしかしたら、途中の街道で落石事故が起きたかもしれません。後ろから来るはずの王家の騎士の方々が……巻き込まれた可能性もあります」
馬車や馬の通る道は、小石が跳ねられて平らになっている。轍ができてることもあるが、小石がごろごろ落ちているのは異常事態だった。周囲から落石があったのなら、逃げ道のない街道上の通行は危険だ。過去の経験から、商人はそう判断する。
王家の旗を掲げた一行の存在も報告し、国境の街へ確認するよう伝えた。事前の通達がないものの、毎月通る商人の顔は知っている。彼が嘘つくメリットはなかった。
「すぐ確認に入れ! 貴殿の報告に感謝する」
まず走ったのは、国境の街へ向けた伝令だった。到着して何もなければ、翌朝戻ってくる。その伝令が、わずか数時間で街へ帰ってきた。
「街道が落石で潰れています」
街道の途中で、騎士の一団とすれ違わなかったこと。落石は大きな岩も含まれ、簡単に向こう側へ抜けられないこと。
その報告に、詰所の責任者は青ざめた。もし王族が巻き込まれていたら……。大急ぎで領主へ報告をあげる。王都へ向けて、至急の伝令が出された。加えて、周辺の集落へ招集がかかる。
街道の現状は不明だが、 王族の一行以外にも巻き込まれた商隊があるかもしれない。鍬や鎌、スコップを担いだ農民が動員され、荷馬車に揺られて現場へ向かった。
続いて彼らを養うための食糧や水、薬などの物資が続く。落石からわずか三日、王都側からの掘削が始まった。
「最低限、人が通れればいい。向こう側の状況を報告しろ」
領主により派遣された管理官が声を張り上げ、にわかに現場は騒がしくなった。




