136.王子三人が揃う危険性
ガブリエル達がソフィーを助けたのとほぼ同時刻。ゼークト王国を走り抜ける馬車があった。帰還中のウテシュ王国の王太子一行だ。事前に通過の連絡をしたが、寄ってほしいと言われなかった。それを理由に、自国へ真っすぐに向かう。
双子のどちらかが縁組できていたら、ゼークト王国は親戚関係となった。だが、今は近づくのが危険な国だ。王太子と双子王子、王位継承権を持つ直系が三人も国を離れている。もし捕らえられ、何らかの取引材料にされたら……その危険をひしひしと感じていた。
ロイスナー公国への誠意を見せる意味で向かった王太子テオパルトは、己の浅慮を恥じる。
国の重鎮である国王が自ら向かうわけにいかず、王太子である自分が向かった。無礼を働いた双子を切り捨てるにしても、ロイスナー公国に処分させるわけにいかない。
当初はそう考えた。相手を怒らせず、こちらが平身低頭謝っていると認識してもらう必要があり、自ら出向く決断をした。だが、王子三人が外に出た状態で、万が一の事故や事件に巻き込まれたら? 王族は暗殺の心配が付きまとう。同時に『不慮の事故』も……。
偶然死んだことにできれば、王位継承権が回って来る。そう考える親族に心当たりがあった。公爵家の息子達だ。彼らにこの状態が知られれば、刺客を送られるだろう。愚かすぎたと悔やみながら、馬車を急がせた。
途中の川で弟達と騎士を洗った。文字通り、石鹸を渡して臭いが薄まるまで擦らせた。
ミロは平気だったが、ネロは熱を出したようだ。冷たい川の水で冷えたらしい。しかし体調を気遣って止まる余裕はなかった。全力で走る馬車を、騎士の一団が守る。ウテシュ王国の旗を立てた一団は、人数の多さもあって人々の噂にのぼった。
宿屋のある大きな街をいくつか通過し、カペル共和国との境を抜けて、ようやく自国の土を踏む。その頃には、テオパルトは疲弊していた。速度を落とした一行に不幸が訪れたのは、このタイミングだった。
両側が切り立った崖となり、細く伸びた街道は抜け道がない。巨大な岩をくり抜いてトンネルを作る技術はなく、岩の間を抜ける道が作られた。王太子一行の馬車が通過する寸前、前方で大きな崖崩れが起きる。
前方を塞がれて戻ろうとした彼らは、少し先でそちらも崩れていることを知った。直接、落石に当たらなかったことを幸運と呼ぶ者もいるだろう。しかし、自国内の移動で街の間を抜ける騎士団が、大量の食糧を持っているはずがない。水も必要最小限だった。
誰かが崖崩れを知り、街に知らせて復旧を急がせても十日はかかる。その間、王太子一行が生き延びられるのか。
天を仰ぐテオパルトは、城で待つ婚約者の顔を思い浮かべた。何としても戻る。その決意を胸に、打開策を模索し始めた。




