134.慌ただしく正しい夜
ガブリエルとクラーラが見守る中、公爵家の侍女がソフィーの身を清める。エッカルトは冷静に見ており、侍女に「武器などを隠し持っていないか確認しろ」と命じていた。だが、ソフィーは武器どころか……下着すらまともに身に付けていなかった。
胸元は強調するために下着を着用させたのに、下は履かせない。それは商売女である娼婦と同じ扱いだった。貴族令嬢としての教育を受け、礼儀作法を学んだ女性ならあり得ない。着用するワンピースやドレス以外に下着も注文していたことに、クラーラは胸を撫でおろした。
体中に赤や紫の痣が残り、一部は黄土色に変色している。治りかけた傷の上を再度殴ったような痕跡も見つかり、侍女達は丁寧に髪を洗って体を清めた。恥ずかしそうにしていたソフィーだが、入浴中に意識を失う。侍女数人がかりで運び出し、貧血だろうと診断された。
エッカルトはあちこちへ指示の手紙を出し、傘下の貴族に情報収集を依頼する。観劇の余韻は吹き飛び、慌ただしく夜は更けていった。
「叔父様、本当にそこで休むのですか?」
「ああ」
先に眠りなさいと帰されたガブリエルは、廊下に出たところで床に座るアウグストを発見する。念のため、彼女の護衛がてら廊下で休むと聞いた。
彼女を取り戻そうとする男が戻って来る可能性が一つ、悪夢で暴れるかもしれない彼女の保護が一つ。加えて、入り口付近の部屋に泊めたソフィーが悪女で危害を加えてくる危険も一つ。最後の話だけ伏せて、ガブリエルに話した。
「叔父様の仰ることは理解しました。では、私も……」
「それはダメだ」
即座に否定し、抱き上げてガブリエルが休む部屋へ送り届ける。むっとして唇を尖らせる姪に、アウグストは言い聞かせた。
「おそらく数日はこの街に宿泊する。明日はちゃんと休むから、今夜だけだ。ガブリエルが廊下で寝るなら、俺は外で寝るようだぞ」
意味不明な脅しを付け加え、部屋の扉を閉める。再び毛布のある場所で座り込んだアウグストの耳に、かちゃりと扉の開く音が聴こえる。首を傾げて視線を向ければ、細く開いた扉の隙間から「おやすみなさい」と可愛い声がした。すぐに扉が閉まる。
その夜、クラーラは一晩中ソフィーの傍らにいた。運ばせた長椅子で休みながら、魘されるソフィーの手を握る。明日はしっかり食事をさせようと考えながら、子守唄を歌った。侍女達も自発的に手伝いを申し出る。
「大丈夫よ、もう一人で戦わなくていいの」
ぎゅっと強く握った手から、ふと力が抜けた。力の抜けたソフィーの手首には、掴まれた際の新しい痣が浮かび始めている。まだ赤く腫れた手首に、冷やしたタオルを載せた。
「あの人はしっかりやっているかしら? 正義感の強い人だから、怒りすぎて眠れないでしょうね」
ふふっと笑う公爵夫人に、侍女達はうっかり賛同も出来ずに苦笑いした。ただ、事実なので否定も出来ないまま。




