表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたくしは何も存じません  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

132/136

132.広がる袖の陰に隠れた色

 物欲しげに厨房へ向いた視線に気づいたのは、祖母クラーラだった。孫娘が欲しいと望んだなら、手に入れるのが祖父母の甲斐性だ。先に店を出て馬車に乗り込んだ夫に、やれやれと首を横に振る。クラーラはそっと店の者に申し付けた。


 泊る宿の情報とデザートの注文。二つを店に残し、エスコートしない夫を呼ぶ。


「あなた、私一人では馬車まで無理ですわ」


 歩けないと胸を張って言い放つ。淑女がエスコートなしで馬車に乗れと? そんな怒りの声に慌てたエッカルトが駆け寄り、恭しく手を差し伸べた。


「大変失礼した。シェンデル公爵夫人、わしのエスコートではいかがか?」


「よいでしょう」


 仰々しい芝居のようなやり取りに、ガブリエルはくすっと笑った。それから祖母と同じ位置に立って待つ。クラーラが乗り込んだのを見て「おじい様、私も!」とエスコートを強請った。来るときは叔父アウグストの手を借りたが、今は別の淑女がいる。


 アウグストを彼女に譲るなら、ガブリエルのエスコート役が必要だった。馬車は見える距離で、走っていけばすぐなのだけれど……。妻の真似をした孫娘に、頬を笑みで崩した好々爺の顔でエッカルトは迎えに来た。


 可愛い淑女をエスコートしながら振り返り、ふふんと得意げな顔をする。アウグストは肩を震わせて笑い、その後……立ち尽くす女性に手を貸した。


「お手をどうぞ」


 筋肉が脳に根を張った、と揶揄されるアウグストだが、礼儀作法や人への接し方は叩き込まれている。騎士団長という役職をこなした男は、スマートに女性を馬車まで連れて行った。


「おじい様、大きな馬車で良かったわね」


「当然だ。我がシェンデル家の紋章を付ける以上、立派でなければ」


 何事も高位貴族らしく、立派に豪勢に! エッカルトの主張に、馬車の中の雰囲気は柔らかくなった。ただ、助けられた女性だけが身を小さくして震える。気の毒に思うが、事情を知らなければ何も言えない。彼女がとんでもない悪女である可能性もあるのだから。


 宿泊先に到着し、御者席の騎士が外から扉を開けた。公爵夫妻、アウグストとガブリエル。最後に降りた女性を、騎士がエスコートする。逃げることも考えつかぬまま、彼女は素直に従った。


 最上階を貸し切っているため、部屋は二つほど余っている。階段に近い一つを護衛の騎士の詰め所として利用するため、残ったもう一つの部屋が女性に宛がわれた。


「さて、事情を聞こうか」


 豪華な部屋に恐縮する女性には悪いが、何も聞かずに終わらせるのは難しい。はっきりと突きつけた。アウグストはガブリエルを部屋に返そうとするが、嫌だと拒否される。五人がソファーに落ち着き、お茶が並べられた。


 静かな部屋の空気が重くなり始めた頃、女性は静かに口を開いた。


「見苦しい喧嘩をお見せし、申し訳ございません。ただ、私はあの場でなければ言えなかったのです」


 意味ありげな言葉と同時に、七分丈の袖を捲って見せた。フレアスリーブと呼ばれる裾へ向けて広がる袖の下は、青紫や治りかけて黄色に染まった痣が大量に残っている。


「これは……」


 アウグストが険しい表情になり、僅かに身を乗り出した。じっくりと確認してから、溜め息を吐く。ここ数日の傷だけではない。古い切り傷も見つけたアウグストは「痛かったであろう」とそれだけを口にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
え… 処す?処す??
【速報】ループものヒロイン、旅先でドアマットヒロインを拾う いやまあ婚約者がDVカス男で、でも家格の差で逆らえないとかそんなんだろうけども と、ここまで書いて「実は女性側がそれを装うために昔から自作…
ドアマットヒロイン!?DVされてたのは間違いない様子…。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ