129.囚われるより楽しもう
次の街は、さらに大きな都市だった。王都に近づいていることも手伝い、だんだんと賑やかになっていく。歌劇の有名な一団が滞在していると聞いて、エッカルトは喜んだ。
「せっかくだ。観ていこう」
「いいわね。久しぶりだわ」
二人が楽しそうなら……急ぐ旅でもないし。ガブリエルも同意する。ここで問題が発生した。アウグストだ。こういった演劇やお芝居に全く興味を示さない男は、同行を遠慮した。ところが、エスコート役が足りないのだ。
同行する騎士に貴族出身者はいるが、ガブリエルはロイスナー公女である。護衛であっても身分が違い過ぎた。加えて、叔父アウグスト・バーレが同行した旅だとバレたら? せめてエスコートはしてくれ。エッカルトに叱るような口調で言い聞かされ、アウグストは苦笑いした。
「構わんが、内容はわからないから寝るかもしれんぞ」
「ボックス席だ。問題ない」
エッカルトが請け合うので、それならばと同意した。大急ぎで準正装させようとするシェンデル公爵夫妻に対し、アウグストはけろりと返す。
「騎士服で問題ない。侯爵として同行したのではなく、騎士団長だからな」
この場でというより、公国での立場を口にした。確かに侯爵は継いだが、ロイスナー公国の騎士団長だ。ならば騎士服が準正装として認められる。買わずに済んだと胸を撫で下ろす叔父に、ガブリエルはくすくすと笑った。
「叔父様、そんなに正装が嫌なの?」
「当然だ。首が締まるし、あちこち引き攣って戦えないではないか」
常在戦場とばかり、とんでもない返事だ。だが、アウグストらしいとガブリエルは納得した。戦いを求めているのではなく、守りたいときに手が届かない痛みを知っている。
「もしリルが怖いときは、助けてと呼べ。俺が必ず助ける……今度こそ」
最後の一言だけ、口の中で小さく付け加えられた。その言葉を聞きとったガブリエルは「ああ、叔父様もなのね」と眉尻を下げる。皆が『前回』に囚われている。それは抜け出せない私も同じなのだろう、とガブリエルは息を吐いた。
「ところで、何の演目だ?」
「知らないわ」
きょとんとした顔の姪に、アウグストはにやりと笑った。
「戦闘シーンがある劇ならいいが」
「そんな劇、あるの?」
仲良く話しながら宿を出て、近くの屋台で足を止める。あまじょっぱい匂いに誘われ、二人でちらりと後ろを振り返った。護衛の騎士は少し離れていて、エッカルトやクラーラの姿は見えない。
「一口だけよ?」
「わかっている、一本だけだ」
串肉を購入し、一番上の肉をガブリエルが齧る。残りをアウグストがぺろりと平らげた。綺麗に指も洗って戻ったのに、匂いでつまみ食いがバレて……祖父母の呆れ顔に二人で笑った。




