128.祖父母と孫の旅行に滲む噂のシミ
ロイスナー公国が重荷を一つ外した頃、ガブリエルは馬車の旅を楽しんでいた。大きな街を通るたび、まだ明るい時間でも宿を取る。祖父母の甘やかしが嬉しく、擽ったく、少しだけ弟ラファエルに対して後ろめたく感じながら。
三つ目の街で、午後から買い物に出かける。服は持ってきたと話したのに、新しく買うと祖父エッカルトが譲らなかった。アウグストは早々に買い食いに出かける。街の中の護衛ならば、同行した騎士で十分足りるはずだ。
「おじい様、あまりたくさんは持っていけないわ」
「安心しろ。積めなくなったら馬車を買えばいい」
話が通じない。孫を甘やかしたくて仕方ない二人の気持ちも少し理解できた。ガブリエル自身は覚えていない『前回』の話だろう。元婚約者に冤罪を着せられ、殺された。タチの悪い物語のようで、実感はなかった。記憶も戻らない。
けれど、両親や弟が嘘をつく必要はない。ならば本当なのだろう。ガブリエルの中で、そう消化された。その話を祖父母も聞いたはず。旅に同行すると言い出したのも、安全のためだけではない。私が女神アルティナ様の天使なら、同じ女神を信仰するゼークト王国にとって他人事ではないから。
同時に、ガブリエルはエッカルトとクラーラの愛情を感じていた。女神の天使である前に、二人にとって愛しい孫なのだ。どこへ着ていくのか迷うほど、煌びやかな服を勧められる。苦笑いして、旅の間も着られるワンピースを強請った。
「こちらのほうが豪華だぞ?」
「おじい様、そんな服で歩いていたらおかしいわ。私は旅をしているのよ」
街中を夜会のドレスで歩く人はいないでしょう? 説得するガブリエルに折れて、エッカルトはワンピースを選び始めた。あれもいい、これも似合うときりがない。止めてくれると思った祖母クラーラは、一緒になって選ぶ。
「楽しいわ。ずっとこうして一緒にいたいくらいよ」
微笑んで服を当てるクラーラの本音に、ガブリエルは笑顔を返した。買い物は五着に膨らみ、別の街でも買うんでしょうと孫に止められた。二人はまだ買いたいと騒ぐが、お腹が空いたと話を逸らすガブリエルと外へ出る。
街中で聞こえてきた噂は、不安が滲んでいた。
「なあ、ウテシュ王国が騒がしいってさ」
「それを言うなら、きな臭い話は商人にもあるぞ」
「ああ知っている。大商会がカペル共和国から逃げたらしいじゃねえか」
恐ろしい恐ろしい。そう締め括られた噂は、心当たりがある。エッカルトは、パブロ商会のセラノを思い浮かべた。ならば、ウテシュ王国の話はカタリーナ王女の婚約の件だろう。手持ちの情報と組み合わせ、エッカルトは判断を下した。
微妙なずれが生じた認識を正す情報は、まだ届かない。




