127.決断できない王太子
妙に静かな馬車の中、双子は互いの手を握って眠っていた。薄汚れた服だが、最後に湯桶を借りたのだろうか。顔はわりと綺麗だった。臭いに咳き込みそうになりながら、双子を見つめる。
すやすやと寝息を立てるネロとミロの顔はあどけなく、幼い頃の可愛い姿と重なった。ぽろりと涙が落ちる。なんと恐ろしいことを考えたのか。命を奪わずともよい。政略結婚で役に立たなくて構わない。流刑地として、王宮に立つ塔へ閉じ込めれば事足りた。
あの塔の出口は一つだけ。今の双子に政治的な力はなく、貴族が助けることもないはずだ。利用されるとしたら子をなすためだから、断種してしまえばいい。
従者に扉を閉めるよう身振りで伝え、外鍵をかけた。このまま連れ帰ろう。父王との約束も守らねばならない。たとえ命を奪う決断をするとしても、父に双子を会わせてからだ。
恐ろしい考えがするりと落ちた。
王命を守り連れ帰る。その後、マルクス王と話し合うのが王太子テオパルトの務めだろう。勝手に決断して命を奪えば、取り返しはつかない。冷静になったテオパルトの命で、双子の馬車に食事と濡れタオルが差し入れられた。
同様に、護衛騎士として双子に随行した者らにも慈悲を与える。王子二人の命令を拒み止めるべき立場だが、彼らを処罰するのはマルクス王であるべきだ。使者としての権限しか預からなかった王太子が、勝手に判断してはならない。己にそう言い聞かせて、テオパルトは再び馬車に揺られた。
少し先、ゼークト王国に入る手前に川が流れていた。そこで水浴びでもさせよう。悪い考えも流れていくだろう。ゼークト王国からカペル共和国へ向かう前に、どこかで服を調達させようか。宿でもう一度綺麗にしてから着せればいい。
あれこれ考えながら、テオパルトは婚約者の顔を思い浮かべた。この手を弟の血で汚せば、彼女が悲しむ。考えをすり替えながら、己の裡に巣食う不安をかき消そうと試みた。
じわじわとシミのように広がる黒い惧れは、テオパルトの中で存在感を増す。王弟ローマンが持つ呪いの黒さに似て、恐ろしかった。
弟達を見捨てない。ただの兄ならば称賛される決断が、重く腹の底に沈んでいく。間違っているのではないか? しかし殺す決断ができない。
ひび割れる音が聴こえた。遠く、硬く、冷たく……。




