126.その誘惑は黒くねっとりと甘い
一昨日からめまいと発熱で対応できませんでした。更新できずすみません。
今回の見合いは延期せざるを得ない。王太子テオパルトの決断で、馬車は真っすぐにウテシュ王国を目指した。こんな姿の弟を他国に見せられないし、今後を考えるとゼークト王国に押し付けるのも問題がある。
たった一つの用事もこなせず、国際問題に発展させる王子。それも二人だ。ウテシュ王国の今後を考えるなら、叔父同様に切り捨てるべきだろう。テオパルトの中の王太子はそう断じる。だが兄としての心情が、捨て切れなかった。
国のため民のためを思うなら、この負の連鎖を断ち切るべきだ。先代王兄、王弟、双子……続いているのは呪いのような繋がりで、他者の痛みを慮ることなく踏みつけにして笑うような者ばかり。それでも、切り捨てようとすると思い出す。
幼い頃に「にぃたま」と呼びながら追いかけてきた姿を、甘えるように勉強する膝に顎を預け眠る顔を。あの頃の純粋な弟達はいない。叔父であるローマンが染めてしまった。いや、染めるのには時間がかかる。ならば、あの双子を手元から離した自分が悪いのではないか。
テオパルトの心は大きく揺れた。己のエゴを取れば、国は揺れるだろう。次の世代も同じような悲劇を生み、世界すら巻き込むかもしれない。実際、先代からの仕掛けを動かした王弟は、コンツ王国を滅ぼした。ならば次に双子が滅ぼす先が、自国ではないと言い切れるのか。
後ろの馬車に乗った双子を思い浮かべる。あの汚れた姿なら、どこかで亡き者にしても「ウテシュの双子王子」だとバレないかもしれない。父王の甘さを知るから、誘惑は甘く囁いた。
次期王として立ち、もうすぐ妃も娶る。遺恨をそのままにして、ウテシュ王国は安泰なのか? これは保身ではなく、王として国を考える立場だから浮かんだ。そうに違いない。最後のチャンスなのだとしたら、これを逃せば次はない。
テオパルトは王太子であり、次の王だ。その覚悟は決まっている。弟達も政略結婚で、バラバラに婿入りさせれば問題ないと考えてきた。多少、やんちゃが過ぎるが兄を慕っている。言い聞かせれば足りると甘く見たのは、父王ではなく自身ではないか?
自らの手を汚す必要はない。騎士に命じればいいのだ。途中の山道で、事故を装って後ろの馬車を転落させればいい。確実に息の根を止めるなら、死体を馬車ごと葬るほうが……。
「休憩を挟む」
御者に止めるよう伝え、恐ろしい考えに取りつかれたまま馬車を下りた。テオパルトを止める者はおらず、騎士達は粛々と従う。どうするか……。
迷いながら弟二人の馬車に近づき、扉の前で足を止めた。下りてこない双子は、何かを察したのだろうか。取り出したハンカチで口元を覆い、テオパルトは意を決して馬車の扉を開いた。




