125.双子と引き換えに得たもの
「ふむ……」
アードルフ経由で受け取った書類を見つめ、内容を確認していく。最後の一枚まで確認し、ヨーゼフは顔を上げた。
「重要な書類が足りないようだが?」
「……双子を帰していただいた後でお渡しします」
切り札を手元に残すのは王族らしい振る舞いだ。駆け引きと称するには未熟に思えたが、ヨーゼフは静かに頷いた。
「なるほど」
外へ出ようと促した。玄関先に用意された馬車の中で、双子が果物を齧っている。髪は乱れてばさばさだが、間違いなく弟達だ。のんきにこちらへ手を振る姿に、腹立たしさが募った。文句を言うのは後だ。
「確認しました。どうぞ」
胸元から封筒を取り出す。濃紺の封蝋を切って確認したのは、ウテシュ王国がロイスナー公国建国を承認する書類だった。持ってくるだろうと踏んだが、初手で渡された中になかったので内心で舌打ちしたヨーゼフの表情が明るくなる。
「迷惑に関する慰謝料は辞退しよう。これからの付き合いもあるし……こちらからの迷惑料だ」
意味が分からないが、今後の付き合いの部分を重視したのだろうと頷いた。護衛も荷馬車に乗せられているようで、馬車は返さなくていいと送り出される。叔父のやらかしの後ろめたさもあり、テオパルトは早々に出立した。
到着して僅か一時間ほど。短い会合は無事に結論を得た。互いに交換し合い、成果を得て別れる。ごくごく自然な政の形だった。
「あまり臭わなかったね」
馬車が見えなくなると、ラファエルは正直に疑問を口にした。もっと臭いと思ったのに。
「臭すぎて迎えの騎士が悶絶したのでな、湯桶はやった。ただ……服はそのままだ」
服を用意してやる気はないし、使った湯桶や布は臭いので処分するそうだ。ヨーゼフの説明に、ミヒャエラが大きく息を吐き出した。
「お父様達がいてくれたら心強かったでしょうね。カール、ケヴィンもお疲れ様」
ミヒャエラはラファエルと手を繋ぎ、屋敷に戻る。カールとケヴィンは「バレてたか」と苦笑いして、武器の回収に向かった。先日のラファエルのアイディアを参考に、屋敷の飾り物や扉の陰などに武器を隠したのだ。使わなかった武器を数えながら拾っていく。
「あんなに隠したのか?」
呆れ顔のヨーゼフに、アードルフが首を横に振った。
「それ以上でございます」
玄関ではセラノがほっとした顔で、ミヒャエラ達に一礼した。ロイスナー公国につくと決めた以上、役に立つところを見せたい。その一心で必死に顔や地位、名前をひねり出した。現場ではほぼ使われなかったが、あとで来訪者の記録を取るアードルフの役に立つはずだ。
それぞれに胸を撫でおろし、緊張を解いた。
「くっさ!」
牧場の一角、やや広い街道沿いの広場で弟達と顔を合わせたテオパルトは、顔を顰めた。距離を置いて逃げようとするが、鼻が麻痺した弟達に追われる。逃げる王太子を助けようと騎士が動き、まるで子供の追いかけっこのようだった。
「迷惑料って、このことか」
鼻を摘まんだテオパルトは、川を探そうと決めた。ある程度汚れを洗い流さなければ、宿すら断られるぞ。馬車は別だと言い聞かせ、双子を再び押し込んだ。
やられたと思うが、腹は立たない。逆におかしくなってきて、腹の底から笑った。ロイスナー公国とは長く良好な関係を保ちたいものだ。




