124.長居をする気はないだろう?
落ち着いたところで、ドアノッカーの音で表情を引き締める。ヨーゼフが見まわした先で、それぞれに身なりを確認した。
正装したヨーゼフとミヒャエラは色を合わせ、濃紺の服を着用している。宝飾品や服のモールは金で整え、格式を重視した。ラファエルは青紫のズボンと上着、シャツは薄いピンクにしている。胸元に飾った白いハンカチに金のネクタイピンが柔らかい印象を与えた。
カールとケヴィンは騎士服だ。爵位はあるが、騎士として隣に立つつもりだった。人払いをされたら貴族は外へ出される。だが騎士は職務があるので部屋に残れるのだ。その点を重視し、意図して騎士服を選んだ。黒と見間違うほど深い紺色だった。
「お待ちしておりました」
アードルフが扉を開き、相手を確認してから丁重に一礼する。これは屋敷を預かる家令の仕事だった。客人の名乗りを聞いて、相手が本物か判断する。簡単そうで難しい仕事なのだ。間違えましたでは済まないため、事前の情報が重要だった。
商人のセラノから、王族の外見を聞いた。商売で王族へも宝飾品や贈答用の品物を納めることがあるため、彼は各国の王侯貴族の姿をよく知っている。今日も貴族の後ろに控え、執事のブルーノへ情報を耳打ちしていた。
王太子、侯爵、子爵が二人、騎士が十数人。それぞれの家名や地位などが伝令される。中へ招き入れられたウテシュ王国の使者が名乗る前に、それらの情報はアードルフに届いた。走り書きの紙を一瞥したアードルフは、恭しく先頭の青年に声を掛ける。
「ウテシュ王国、王太子殿下の御来訪を歓迎いたします」
「っ……ああ、よろしく頼む」
王太子と名乗るより早く、地位を知られていたこと。事前に説明していなかっただけに、王太子テオパルトは一瞬だけ揺らいだ。外交の場で揺らぎは隙に繋がる。すぐに表面を取り繕ったが、視線は落ち着かなかった。きょろきょろと窺うような動きを見せる。
すぐに応接間へ案内され、決められた席に落ち着いた。人払いを望むテオパルトに応じ、ヨーゼフは下がるよう命じた。寄り子貴族だった者が従い、使用人も出ていく。残ったのは公王一家と、思惑が大当たりした兄弟、家令、執事だけ。茶を用意する侍女も下げられた。
「よく来られた。引き渡し後、すぐにお帰りかな?」
ヨーゼフは「長居する気はないだろう?」と問い詰める言い方をする。裏を読むなら「早く帰ってほしい」と滲んでいた。
迷惑をかけた立場である以上、ロイスナー公国で歓迎されるとは思っていない。テオパルトは一度目を閉じ、ゆっくり息を吸い込んだ。意識的に口角を持ち上げる。笑みに見えるよう表情を取り繕い、穏やかな声で応じた。
「もちろんです。お詫びの協議が終われば、すぐにでも」
迷惑をかけたことへの慰謝料、国としての口止めを兼ねた賠償金、不法侵入したお詫び金……様々な名目の支払いが記された公式文書がテーブルに置かれた。相場の二倍近い金額が記され、すでに王印が押されている。これがウテシュ王国なりの誠意だった。




