122.場を読まぬ道化の振る舞い
考えすぎて眠れない夜も、いつの間にか夜明けを迎える。カーテンの隙間、明るくなった窓から朝日が差し込んだ。大事な日なのに、寝不足を悟られてはいけない。子供ながらに、ラファエルはそう感じていた。眠気は訪れないので、欠伸をする心配はなさそう。侍女がカーテンを開けるのを待って、動き出す。
着替えを終えて、身支度が整ったのを鏡の前で確認する。綺麗に櫛の入った灰銀の髪、目元が赤くなった瞳は青……。父母の色を姉と分け合ったようなラファエルの色は、どこか冷たい印象を与えた。
「おはようございます」
父母の待つ食堂で挨拶し、二人もあまり眠れなかったのでは? と気づいた。母は顔色が悪いし、父も目が充血している。ラファエルは暗い雰囲気を何とかしようと口を開きかけ、入ってきた従兄二人を見て黙った。
「うわっ、暗いっす」
入ってきたカールが、アードルフに注意される。ケヴィンはその点ちゃっかりしていて、挨拶だけで余計なことは言わなかった。言葉遣いを正されるせいもある。
「ウテシュ王国の使者は午後ですか?」
「昼過ぎと連絡があった」
大人の会話を聞きながら、黙々と朝食を平らげる。ラファエルは、次の言葉に手を止めた。
「双子と騎士、そのまま引き渡しますよ」
「構わない」
どういう意味だろう。ラファエルが首を傾げたのを見て、カールが説明した。塔に閉じ込めた双子は、貴族牢と同等の上質な部屋にいる。だが当然、風呂はない。そのまま渡すとは、入浴させないの意味だったようだ。
騎士達は別の牢だが、やはり牢なので風呂はなかった。その辺の説明を受けて、ラファエルは静かに頷いた。もし迷い込んだだけなら、客人として持て成すし相応の身支度を整えて帰す。しかし、意図的に不法侵入したのだから、罪人だった。
公国として、罪人を持て成すのは間違っている。だから何もしないと確認し合ったのだろう。理解するラファエルの様子に、母ミヒャエラは眉尻を下げた。
まだ八歳、幼くて済む年齢だった。ガブリエルのため独立した弊害が、こんなところに出ている。承知していても、他に道を見つけられなかった。心の中で謝るミヒャエラを、ヨーゼフは無言で見守る。
記憶がなければ、ラファエルも楽だった。自分達はともかく、息子の記憶は不要だったのでは……そう思う反面、記憶があるから親の言動を理解する。我が儘を呑み込み、惨劇を回避しようと協力した。一長一短、どちらを選んでも苦しい。
「ウテシュの使者……馬車の中で同席するのかな」
ぽつりとケヴィンが呟く。空気を読まない、場を壊す発言に兄カールが便乗した。
「臭いからか?」
「だって、実際臭うし……」
「そんなん、すぐに宿屋で風呂借りるだろ」
「宿屋が気の毒だ」
大金を払ってもらったとしても、嫌だろうな。そんなケヴィンの発言に、ラファエルが噴き出した。釣られたようにヨーゼフが肩を震わせ、ミヒャエラが口元を押さえる。
道化の振る舞いで、深刻な雰囲気は消えていた。




