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わたくしは何も存じません  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく


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121/136

121.心に刻まれた傷は癒えない

 初の外交デビューだと、ラファエルは目を輝かせた。ウテシュ王国の情報を調べている。夢中で知識を吸収し、教育係に質問する姿に驚いた。ミヒャエラと顔を見合わせたヨーゼフは、成長の証と喜ぶ。


「これほど効果があるとは」


「自分なりに考えているのだと思うわ」


 姉ガブリエルが女神に選ばれた天使なら、公国を率いて姉を助けるのは自分の役割だ。ラファエルはそう考えた。似た名前なのに、弱くて優しくて柔らかな姉。『前回』の惨劇がまだ消えない。


 あの美しい姉の何が不満だったのか。どうして別の女に誑かされたのか。理由を聞いても納得できないだろう。聖女を名乗った女は品がなく、ねっとりしたしつこさを感じた。何度か声を掛けられたが、すべて無視したことを思い出す。


 今さら、ニクラウスに尋ねようとも思わないし、考えを質す気もなかった。彼が愚かにも踏み外した道は、女神アルティナの加護が働かない。そんな地獄に落ちる奴と、まともな会話など成立しないだろう。ラファエルはそう認識していた。


 だから、姉を守るための方法を考える。柔らかな心は簡単に傷つくし、優しさは搾取の温床となった。大好きな姉をどうやったら守れるか。突き詰めた先にあるのは、自分が強くなることだった。盾になればいいし、覆い被さってもいい。


 真綿で包んで、絶対に痛みに触れさせなければ大丈夫だ。そう考えるラファエルは、危ういほど真剣だった。


 ウテシュ王国の双子は、こちらを傷つける存在だ。それを奪い返しにくる使者も、敵である可能性が高い。単純に距離を置くのではなく、上手に丸めこめないか。


 応接間は整えられ、使用人達は別室や廊下を磨き始めた。家令アードルフ指揮の下、侍女も侍従も役職も関係なく努力している。明日使う部屋に踏み入り、迷った末に壺へ短剣を隠した。緊急時は壺の中に武器がある。そのことを誰かに告げればいい。


 ラファエルは鼻歌を響かせながら自室へ引き揚げた。その姿を見つめていたのは、侍女長イレネだった。王都邸から同行した彼女は『前回』を知っている。ラファエルの行動の意味も一瞬で理解した。若くして両親を目の前で殺害され、己の首も落とされた。その経験が精神に影響しないはずがない。


 ラファエルは武器を手に戦う道を選んだ。いざとなれば姉の盾となり、矛となって戦う覚悟を決めたのだ。ならば、大人である自分には何が出来るのか。侍女長として見守ってきた若君が隠した短剣を確認し、玉座の後ろにあるカーテンの陰に長い剣を置いた。


 自ら振るうことが叶わずとも、部屋にはカールやケヴィンもいる。入室時は武器を手放す彼らに、場所を知らせれば足りるだろう。イレネは静かに退室した。


 二人の行動をすべて見ていたカールは、額を押さえる。


「いっそ前回の記憶はないほうが……」


 楽だった人もいるのでは? 疑問が女神への不信のように感じられ、尻すぼみに言葉を呑み込んだ。

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― 新着の感想 ―
トラウマ…心の傷…でも、今度は皆で幸せになっていけそう?隠した武器を使うことがないと良いんですが…。双子の護衛どもは駄目駄目でしたが、使者は真面だと良いんですが…。ちょっとハラハラドキドキです…。
唐辛子爆弾試験運転中。猫作者さんにうっかり爆弾が!!
さてカールは前回の記憶があった場合、同じセリフを吐けるのだろうか?
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