120.公国初の要人の公式訪問前日
貴族の筆頭は弟であるバーレ侯爵だ。王国ならば公爵と同じだった。だが今回はガブリエルに同行し、ルイス王国へ向かう旅路の途中。最高位の侯爵が不在のため、繰り上がりで伯爵が貴族として立ち会う予定となった。
カールとケヴィンも伯爵位を受けている。いずれは、長男カールが父アウグストの侯爵を受け継ぐ。元々、公爵領には複数の貴族がいた。寄り親寄り子の関係で繋がる親族ばかりだ。
他の領地からの流れ込みは、すべて女神アルティナに返還された。全部で八つの貴族家当主が顔を合わせ、明日の打ち合わせを開始する。ある程度の骨子が決まり、解散となった。相手の出方、持っている情報がわからない以上、臨機応変しかない。
「出迎えは俺達がするから、伯父上は応接間で待っていてくれ」
公爵家だった頃から、外部の客人を迎えるための部屋が存在した。応接間と呼ばれる部屋は、壁紙や絨毯はもちろん、天井の模様や彫刻、暖炉にいたるまで豪華だ。家具は一級品を選び、ロイスナー家の顔と表現できる場所だった。
独立してから、来訪する他国の要人を迎えるのは初めてだ。ゼークト王国のシェンデル公爵夫妻は、要人ではあるが親族として訪ねてきた。その後の王女カタリーナは家出人で、王族としての訪問ではない。ウテシュ王国の双子に至っては、不法侵入者だった。
使用人達が磨く様子を確認し、ミヒャエラは表情を和らげた。
「ここなら王族の謁見の間と比べても遜色ありません。椅子の位置を少し変えましょうか」
元王族の母クラーラを持つミヒャエラは、王宮内の作法に詳しい。公爵だった頃より、上下関係を明確にしたほうがよいと考えた。公王である以上、他国に舐められる遜った対応はできない。
扉の正面にある机を横に移動させ、一人掛けの椅子を二つ奥へ並べる。背後の窓から差し込む光を背負う形は、段差がなくとも権威と立場が明確になった。今後を考えるなら、天使のいる国として女神アルティナ様のステンドグラスがあってもいい。ミヒャエラはそう付け足して微笑んだ。
「そうだな、手配しよう。……あの子は今、どこにいるだろうか」
「まだゼークト王国内、それも近い位置にいると思いますわ。父母が観光気分でしたもの」
孫娘のガブリエルに、祖国を自慢したい。観光地へ立ち寄り、あれこれ買い与えたい。そう口にした両親の行動と性格を、娘ミヒャエラはしっかり理解していた。牛歩とまで言わないが、街ごとに泊まって連れ出しかねない。
「安全で快適なら仕方ないかな」
想像がついてしまい、喉を震わせて笑ったヨーゼフは肩を竦めた。曇り空を見上げた二人が感傷に浸るより早く、ラファエルが飛び込んでくる。
「お父様、お母様! 明日は何があるの?」
嫡子であるラファエルに説明していなかったことに気づき、顔を見合わせた。賠償金の話をするから外してもいいが、本人は立ち会う気でいる。ならば拒む理由はない、とヨーゼフは端的に説明を始めた。




