119.商人がもたらす最新情報
時は戻り、ガブリエル達が旅立ってすぐ、ロイスナー公国は対策会議を行った。ウテシュ王弟が『前回』の騒動を引き起こした可能性が高い。ウテシュ王国の使者が到着するまでに、情報が必要だった。そこで矢を立てたのが、パブロ商会だ。
パブロ商会は、カペル共和国の中でも大きな商会に分類された。セラノに代替わりしてから急成長したが、その一端を担ったのがウテシュ王国との取引だ。当然、王弟ローマンとの付き合いもあった。
「どのような人物だ?」
ヨーゼフの質問は端的だ。短く無駄がない。商人であるセラノは、それを王たる素質と判断した。傾きつつある地盤から、安定した大地に逃げ込むのは本能だ。ロイスナー公国に骨を埋める覚悟が整えば、何も隠すことなどなかった。
「頭の回転が早く、人を信じない方です。冷淡に人を切り捨てることに罪悪感を覚えず、役に立たないと判断したら処分されます。ただ……寂しい方なのだろうと」
最後に付け加えた一言が、印象を左右する。ヨーゼフは隣に座る妻ミヒャエラの顔を窺った。眉根を寄せたミヒャエラは、左耳に指を当てて強く押す仕草を見せた。考えに没頭するときに見せるため、判断に迷っている印象を受ける。
「なぜ寂しいと思った?」
「国王陛下に不遜な物言いをしながら、同調すると反論してきます。兄君の愛情や関心を望んでいるのだと考えました」
自ら貶しておいて、側近らが同調すると撥ね除ける。確かに兄に依存しているような言動だ。感情だけがちぐはぐな反応を見せている。頷いたヨーゼフが休憩を入れ、お茶が運ばれた。そのタイミングを待っていたように、伝令がセラノに情報をもたらした。
「……っ、そうですか。下がって構いません」
セラノは伝令を帰し、得たばかりの情報をかみ砕くように吟味した。それから休憩を終えた公王夫妻を待って、情報を差し出す。商人達が利用する情報網は、一国の諜報機関に匹敵する。それだけ迅速な情報に、大金が支払われてきた証拠でもあった。
情報は国をもひっくり返す。それが商人における情報への認識だ。
「新しい情報が入りました。ウテシュ王国の王弟ローマン殿下が投獄されたそうです」
確かな情報だと付け足し、セラノは己の見解を語った。おそらく国王にローマンの悪事がバレた。そうでなければ、王族が投獄される可能性は低い。元公爵であったヨーゼフもその辺の事情は理解していた。
「ならば……」
「ウテシュ王国の使者は知らない可能性があります。様子を見るほうがよろしいかと」
頷きながら、ヨーゼフの頭は忙しく案を練っていく。ウテシュ王国の使者は国境を越えた。元公爵領だったロイスナー公国は、山脈を除けばさほど大きな領土を持たない。明日には使者が到着するだろう。
使者に対する方針を固め、準備を整える。迫った期限を前に、ロイスナー公国の貴族が招集された。




