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わたくしは何も存じません  作者: 綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢をよろしく


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114/136

114.事件の余波と思わぬ援護

「コンツ王国の……」


 ウテシュ王国へ入ってすぐに得た情報に、ヴェルナーは大きく息を吐いた。深呼吸を数回行い、感情の乱れを整える。国境が情報を封鎖していたのでは? と思うほど、ウテシュ王国では新たな知らせが舞い込む。今回の王弟暗殺未遂事件も、その一つだった。


 王族を殺そうとした騎士が免職だけで許された。それは大きな波紋となり、憶測を呼ぶ。貴族も平民も関係なく、情報が飛び交っていた。王家の存在自体が揺らぐほど、大きな事件が起こる。そう予感させる危険な兆候がいくつか見受けられた。


「ウテシュ王国の命運が尽きたか……」


「一つ滅びて一つ興る。そういうことでございましょう」


 ベニートの静かな同意に、ヴェルナーは頷いた。王弟ローマンが黒幕で、彼一人の咎で済むなら……そう思った時期もある。だが、ウテシュ王国自体の寿命が尽きるのなら、それもまた女神のお導きだろう。ほぼ罪状が確定したのに、ローマンがまだ生きていることが示している。


「急ぐよう、シュテファンに連絡を取らねばならん」


「ようやくでございますね、旦那様」


 噛み締めるように絞り出したベニートの声に、ヴェルナーは大きく目を見開いた。そうしなければ、涙で潤んでしまう。瞬いて誤魔化し、音もなく頷いた。長年の癖で顎髭に手を伸ばし、つるんとした感触に苦笑いする。剃ったのを忘れていたようだ。


 枢機卿シュテファンの赴任は昨日だった。今頃は荷物を解いている頃か。






 一足早くウテシュ王国に入ったシュテファンは、教会の自室で祈りを捧げる。情報収集をするまでもなく、あちこちで王弟ローマンの暗殺未遂が囁かれていた。すこし話を促せば、ぺろりと話す者が溢れている。それだけ娯楽が足りないのだろう。


 若い司教の一人が、興奮した様子であれこれと教えてくれた。懺悔に来た侍従の話に、シュテファンは目を細める。暗殺未遂事件の騎士は、コンツ王国滅亡の報復を望んだ。料理を運ぶ侍従の護衛として入り、最終的に失敗している。問題はこの侍従のほうだった。


 侍従もコンツ王国の出身なのだ。それも貴族階級だった。幼い頃から祖父母に聞かされた祖国の滅亡、父母は王家に殉じて亡くなっている。寂しい幼少期の記憶も、祖国の凄惨な末路も……すべて胸に抱いて成長した。


 祖父母のツテを頼って王宮で働くある日、騎士の一人から持ち掛けられた復讐計画。侍従はすぐに協力を申し出た。料理を運ぶ際の護衛に、祖国を同じくする騎士を選ぶ。ローマンの貴族牢で斬りかかる騎士を止めようとした、他の騎士にしがみついて妨害した。怖がるフリをして……。


 抱えきれなくなった重荷を、教会で懺悔として吐き出したのだ。この懺悔は証拠にならず、罪に問われることはない。


「懺悔の内容を、勝手に話してはいけませんよ」


 穏やかに釘を刺す。言いふらしてはならないと。枢機卿からの警告に、若い司教ははっとした様子で顔を赤くした。


「申し訳ありません、つい」


「気持ちは理解しますが、懺悔を聞くのは我々ではありません。女神様なのですから」


 決まり文句となった規律を理由にして、しっかりと口止めをした。窓の外から小鳥のさえずりが聴こえる。耳を傾けながら、静かに手を組んだ。祈りを捧げる枢機卿シュテファンに、司教の尊敬の眼差しが注がれ……やがて彼も膝をついて祈り始める。


 教会が静寂を取り戻す前に、新たな事件が起こることを詫びるように。シュテファンの祈りは長く続いた。

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― 新着の感想 ―
方々から恨み買いまくってるし国内にソイツらが潜みまくってる。 身内の問題児を厳重に管理処分するのを怠ったウテシュ王室の自業自得ですね。 「困った身内だ~」と自分たちが呑気にしていたツケを払うとき、それ…
枢機卿、ヤル気だぁ……
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