111.王家の血に流れる黒い呪い
ウテシュ国王は、悩ましい問題に頭を抱えていた。伯父がろくでもない人物だったことは、記憶に新しい。気に入らないからと貴族家を潰そうとしたり、誰かの人生を弄んだり。公爵家を興すことも許されず、王家で飼い殺しにされた。
頭は回る人だったらしい。気難しい弟とよく一緒にいるところを見かけた。机上の盤で遊んでいる姿は、まるで親子のようだった。年齢差も、親族で顔が似ていることも……今考えれば、内面もよく似ていたのだろう。
滅びたコンツ王国に、弟ローマンが絡んでいたことを知らなかった。言い訳ではなく事実であっても、この言葉を国王が口にしてはならない。国王マルクスは自覚していた。
ウテシュ王国は、すべての世代に問題児が生まれる。まるで何かの呪いのようだ。マルクス王の先代は王兄である伯父、当代は王弟ローマン、次世代は双子の王子ネロとミロ。
数代前の世代は、王子が一人ならと考える。ところが王太子である一人きりの王子が狂い、側妃に王子を生ませる騒動に発展した。その後は複数の王子をもうけることで、国と王家を保っている。
「他国を滅ぼすくらいなら、我が国を壊せばいいのだ」
ローマン捕獲の一報を受けて、思わず呟いた。『前回』の噂は、ウテシュ王家にも届いている。アードラー王国に起きた奇跡と称する者がいた。同時に、あれは女神様の罰だと項垂れる者もいる。どちらも正しく、どちらも間違っているのだろう。
弟を幽閉する案を出したマルクス王に対し、王太子テオパルトは首を横に振った。
「呪いは断ち切るべきです。コンツ王国を弄び滅ぼしたのが叔父上なら、責任を取るべきでしょう」
コンツ王国を脅し、嗾けた。その結果、アードラー王国の国境を守る伯爵家が、領民ごと滅亡している。あの後、血に染まった土地は呪われていると広まり、誰も手を付けずに空白地帯となっていた。実際、踏み込んだ者が錯乱した事例もあると聞く。
女神の慈悲で浄化されるまで、誰も近づけないだろう。そんな悲劇を作り出した人物が、己の親族だなどと。テオパルトはそう嘆いた。王太子の言い分もわかる、マルクス王はローマンの処刑を決断した。
ほぼ同時期、老シーゲル伯ヴェルナーが動く。シュテファンという協力者を得て、ローマンへの復讐の糸を手繰り始めた。絡まった糸の先、ウテシュ王国は過去の清算を求められるだろう。
「王弟が捕縛された?」
罪人として連れていかれた。ヴェルナーはベニートと顔を見合わせて、にやりと笑う。ウテシュ王国を揺るがす騒動は、静かに動き出していた。




