104.互いに情報を与え合う
「ウテシュ王国の……王弟、殿下が?」
もたらされた情報の内容に、ヨーゼフは愕然とした。災厄が回って戻ってきたような、不思議な因果に眩暈がする。情報を口にしたセラノは、無言でただ頷いた。
「もしかしたら『前回』から繋がっていたのかも……」
混乱する頭の中を整理しながら、ミヒャエラが呟いた。その声が妙にヨーゼフの耳に残る。ああ、そうだ。独立したのも、娘を取り返したのも、すべて『前回』から繋がっていた。一族が滅ぼされる未来を回避したと思った矢先、騒動の真相を知るなど。
これも女神アルティナ様のご意思なのか?
「ウテシュ王国から、使者が来る。立ち会ってもらおう」
「承知いたしました」
パブロ商会長セラノは、言葉と同時に覚悟を決めた。もう逃げる先はない。ウテシュ王国やアードラー王国は危険で、カペル共和国も守ってくれないだろう。ゼークト王国を抜けてたどり着いた、このロイスナー公国を新たな拠点とする。生き残るにはそれしかないと腹をくくった。
公国に来て、『前回』の記憶を持つ者から話を聞く機会に恵まれた。アードラー王国で起きた悲劇は、セラノの心を抉った。十五歳で嫁ぐ予定の公爵令嬢を、王の病を理由に一年待たせて……その上殺害した? 冤罪を被せ処刑した。あり得ない。
公爵一家が殺され、騎士団長も死ぬ寸前だった。アードラー王国が、ロイスナー公国の独立に口出ししなかったのは、そんな裏事情があったのだ。他国の者は四年の巻き戻しを覚えていない。そこで、セラノは違うと気づいた。
何人か、奇妙な動きをする商人がいた。もしかしたら、彼らは『前回』の記憶を持っていたのではないか? 四年後の悲劇を知るから、本拠地を移したり商売先を変更したりした。不自然に見えていた動きに、一本の糸が浮かぶ。その糸に絡むように、世界は螺旋を描いている。
「僭越ながら、どなたかに『前回』の知識を共有していただきたく……」
願い出るセラノの真剣な表情に、ヨーゼフは迷った。だが人の口に戸は立てられぬ。隠そうにも、この領地内にも記憶を持つ者は何人もいた。家令アードルフから聞くよう許可を出し、ヨーゼフは応接室の椅子から立ち上がる。ふらつく妻ミヒャエラを支え、別室へ移動した。
「あなた、ウテシュ王弟殿下の情報が必要だわ」
ミヒャエラの焦った声に、ヨーゼフも大きく頷いた。ウテシュ王弟が何をしたのか。それがどう動いて『前回』の悪夢を引き起こしたのか。素知らぬ顔で双子を迎えに来る使者を、息子の賠償金支払いに応じた王を、すべてを根底から疑うべき状況にヨーゼフは手を組む。
祈りを捧げる先は女神アルティナであり、ガブリエラやラファエルの未来を願った。




