101.快適で安全な旅の勧め
アードラー王国は一度滅んだも同然だ。グスタフ王はそう宣言し、国民に寄り添う新たな政を開始すると約束した。王太子ニクラウスがやらかした話も、包み隠さず公表される。加えて、女神アルティナへの恭順を改めて示し、教会と協力体制を築いた。
困窮した民への支援、教育を含めた新たな仕事への誘導、孤児の保護。治療院を作る話も、とんとん拍子に進んだ。その際に使用する資金を王族が負担する。国王グスタフの資産はもちろん、ニクラウスが所有していた財産もすべてつぎ込まれた。
金額の使い道も公表され、人々はようやく落ち着きを取り戻す。王は女神を軽んじておらず、民を見捨ててない。信じるのは先でも、ひとまず協力してもいいと思わせることに成功した。
ようやく立ち直り始めた王国は、改めてロイスナー公国へ親書を送った。国としての交流を願う、と。
「国も人も、ここまで変わるのか」
決意表明に近い親書を開き、ヨーゼフは感嘆の声を上げた。そわそわしている義父エッカルトに手渡し、読んでもらう。あれほど忠告しても聞いてもらえなかった『前回』が嘘のようだった。これこそ、女神アルティナ様のご加護と感謝する。
少なくとも、国を捨てることが許されなかったアードラー国民は救われるはずだ。
「随分と大盤振る舞いしたものだ」
「後がないからでしょうね」
覗き込んだシェンデル公爵夫人クラーラは、呆れたと示しながら苦笑いする。跡取りを処罰した以上、今後は養子を取って王国を守るしかない。けれど、一番頼りになるロイスナー公爵家は独立してしまった。アードラー王家が打てる手は、たいして残っていない。
「悪くないと思うわ」
公王妃となったミヒャエラは、穏やかな口調で肯定した。己の血筋が途絶えるとしても、民を路頭に迷わせるわけにいかない。王としての判断なら、マシなほうでしょう。かなり辛辣な意見を交えながら、ミヒャエラはこてりと首を傾けた。
「ところで、ガブリエルとアウグスト殿の旅を許すと聞いたが?」
「女神様のご神託とあれば、お断りも出来ませんからな」
エッカルトが話題を変え、ヨーゼフが頷く。しばらく考え、エッカルトがにやりと笑った。
「決めた! わしらも同行するぞ!」
「え? 狡い、お父様!」
宣言した父に、娘ミヒャエラが噛みつく。一緒に行きたいのは私も同じ、と訴えるも……公王妃が国を離れるのは難しい。分かっていた。国を興したばかりで、自由な振る舞いは出来ない。
「ルイス王国へ向かうなら、山脈を避けてゼークト経由だろう。わしらが一緒なら、検問も最優先で通れるぞ。旅費も払うし、最高の宿も手配する」
利点を並べるエッカルトに、ミヒャエラとヨーゼフは顔を見合わせた。確かに旅の安全と快適さが高まる。多少、速度を犠牲にしても安全優先になるのは、親の視点なら当然のこと。
「お願いするわ、でも……シェンデル公爵家のほうは大丈夫?」
「問題ありませんよ、もし何かあれば、家を捨てればいいんですもの」
ほほほと笑う妻の発言に、エッカルトは「え?」と目を丸くした。どうやら、まだ息子夫婦に口出しする気でいるらしい。隠居しなさいと突き放すクラーラに、エッカルトが負けるのは数分後だった。




