表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/78

第77話 罰

 そう――彼と、同じことをするだけ。


 それなのに、私の手は最後まで動いてくれない。


 私は――あの子たちのために、罪を背負う覚悟もないのだろうか?


 そんな自分に、私は愕然とする。


「あなたが手を染める必要はないかと」


 後ろへと、振り返る。


「へー、驚いた顔……しないんですね」


 と、ノエルさんが感心? したように呟いた。


「あなたには、私の頭が潰れたように見えていたはずですが」


 血の跡すらなく、無傷な姿で――私の領域の外で佇んでいる。


「もしかして、吹き飛ばされたニーナたちの身体が別物に入れ替わっていることにも、既に気づいているのですか?」

「……複製、ですね」

「そうです、そのとおりです。あれは見分けがつかないぐらい精巧なものですが、触れた瞬間泡となって消えてしまいます」

「本物のお嬢様たちは別の空間に?」

「ええ、その通りです。別の空間で今は静かに眠っていますから問題ありません」

「それは、王女様がしてくれたんですね」


 私の言葉を聞き、ノエルさんは嬉しそうに笑いだした。

 

「そこまで理解しているとは末恐ろしいですね。流石は、転生者同士。何か感じ入るものでもあるのですか?」

「……いえ、そういうわけでは――ないです」


 ノエルさんは、私をじっと眺める。

 

「転生者同士――という言葉には、特に反応しないのですね」

「……」

「それにしても、姫様の予測通りに事が進んでいます。あの人の目は、未来すら見透すのかもしれません」


 その言葉には、どこか熱を感じさせる。


 突如――ノエルさんの隣の空間に、黒い線が上から下に流れ落ち、手が2つ飛び出すと、横に線が広げられた。その中から王女さまが姿を見せ、身体が異空間から抜けた瞬間、空間が縮小し、消え去った。


 綺麗な金髪の髪を靡かせ、いつもと同じく――頭の上には銀色のティアラに、白いドレス姿。


「私のいないところで、私の話をされるなど――とても恥ずかしいものですね」


 と、王女さまは笑みを浮かべられた。


「恥ずかしい? 嬉しいの間違いではないのですか?」

「ええ、それはもう――どちらの感情も間違いではありません。何せ、あなたの言葉からは私への愛を感じましたから」

「むむ、そんなつもりはなかったのですが……」

「いえいえ、感じてしまいましたよ。それはもう、たっぷりと、ね」

「そうですか。それならば、気をつけねばなりませんね」

「ええ、そうですとも、気をつけねばなりません。形の上では私への愛を隠さなければならない、とは――とても大変なことですね、ノエル」

「いえ、多分大丈夫かと」


 その言葉に、王女さまは笑顔のまま首を傾げました。


「今は、ニーナの方に興味が出てきましたから」

「ほぅ――――それは、あまり面白い冗談ではないですね」


 王女さまは笑顔のまま、頬に手を置きました。

 

「それよりも、さらに面白くない案件をさっさと片付けませんか? シオン。あの顔は、面白くないどころか――見ていて不愉快ですから」

「ふふふ、確かにそうですね」


 王女さまは、私の方へと身体を向けました。


「リッカさん――と、お呼びして、問題ありませんか?」


 やはり、気づいているのだろう。


 きっと――会った瞬間から、私の存在を。

 

「……気になさらないでください。私は私ですから」

「そうですか、それではリッカさん。あの男の口だけは自由にしてください」

「え?」

「お願いします」


 私は少し、悩んだ。


 だって、あの声はもう――聞きたくないから。


 王女さまは私を見つめる。


 真っ直ぐな目で、私を。


 だから――私は、彼の口を開放した。


「お、お前ら! こんなことをして――た、ただで済むと思うなよ!」


 あぁ、本当――煩わしい声だ。


「あら、どうなると言うのですか?」


 と、王女さまは笑顔でお尋ねになる。


「そんなの、決まっている。早く死なせてくれと私に懇願するぐらいのことを、お前らの体に刻み込んでやる!」

「まぁ、それはなんて恐ろしいのでしょうか」


 と、王女さまは困った顔で呟かれた。


「第三王女だからと言って、赦されると思うなよ? 王位継承権も失い、理論派ではなく感覚派として生まれたお前など、王国から誰も必要とされていないのだからなぁ!」


 そう叫んだ後、男は笑う。


 なんて、醜い笑い声なのだろうか。


「枢機卿の後ろ盾がある今の我々は、王であろうとも無視できん存在なのだぞ!」

「まぁ、そうなのですか?」

「そうなんだよ、この間抜けがぁ! だから、さっさと私を解放しろ。死にたくなければなぁ!」

「リッカさん」


 王女さまは笑顔のまま、再び私の方へと顔を向けた。


「あなたの領域内に入っても構いませんか?」


 やはり、この領域内の範囲にも気づいていたようだ。

 

「はい、大丈夫です」

「それでは、失礼いたしますね」


 そう言って、王女さまが私の中へと侵入した。


「聞いているのか、この無能な姫が!」

「ええ、ちゃんと、聞いておりますから、どうかご安心ください」


 王女さまは右手を開くと、その爪を鋭利な刃物のように変形させた。


「な、何をする気だ」

「いえいえ、お気になさらず」


 そう言って王女さまは男に近づくと、彼の脇腹を右手で刺した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ