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第65話 懐かしい時間

 いきなり、扉が開きました。


「リッカ!」


 お嬢様が現れ、こちらへ向かってきます。


 怒りの感情があらわになっていました!


 あまりの形相に、私の身体は震えてしまいます。


「リッカ、何もなかったでしょうね!」


 お嬢様は私の肩を掴み、激しく揺らします。


「な、何も、なかったですから〜」


 の、脳まで揺れております!


「本当に何もなかった。だから、許してやれ」


 ぴたりと、揺れが止まります。


「ランスには、聞いてないわ」

「む、そうか。それは、すまない」


 アレックス様と、メイドさんおふたりが走って中へと入って来ます。


「アリーシャ、お前は本当にどうしようもない奴だなぁ!」


 アレックス様はお嬢様の首根っこを再び掴みました。


「もう、大丈夫だ。確認したいことは、終わった。アレックス――感謝する」

「そうかい? それなら、いいのだが」


 そう言って、アレックス様はお嬢様から手を離されました。


「ランス、本当にすまないね。この妹はいくつになってもとんだじゃじゃ馬だ」

「……お兄様、リッカの前で変なことを言うのは止めてください。私の名誉を著しく傷つけますから」

「本当のことを言って、何が悪いんだい?」

「それを本当だと思っているのは、お兄様だけですから」


 アレックス様は、鼻で笑われます。

 

「お前はいくつになっても、自分が見えない奴だね」

「それは、お兄様の方かと思いますが? 上辺だけを上手く取り繕ったとしても、根っこの部分は横暴だった子共の頃と何も変わっていませんから」

「あ? 何だと、コラ」

「ほら、すぐにそうやって昔の言葉遣いに戻るじゃないですか」


 アレックス様は、顔を引きつらせました。

 

「ぼ、僕は、お前とは違う。僕はお前と違って大人になったんだ」

「確かにな。俺に会うたび、喧嘩を売ってきたお前とは、もう違う」

「……ランス、君は一体どっちの味方なんだい?」

「む、褒めたつもりだったのだが……」


 何だか、昔のやりとりを思い出し――私はつい、笑ってしまいました。


 3人共、私の方に視線が向けます。


 その後、アレックス様とランス様はお互いの顔を見て、笑いだされました。そんなお二人を見て、メイドさんたちも優しげに微笑むのでした。そんな――和やかな雰囲気の中、お嬢様だけはプンプン顔のままでした!


「それより、ランス。これでもう、気持ちの整理はついたってことでいいのかい?」

「ああ、縁談の話は断ることにした」

「そうか、それは良か――――って、はぁ!? どう言うつもりだい、ランス!?」

「もう少し、この気持ちを大事にしたいと思っただけだ」


 アレックス様は、ため息を吐かれました。

 

「本当、一途な奴だね、君は」

「それは、お前もそうだろ?」

「い、いや――別に……リッカは僕にとって妹だ。家族を大切に思うのは当然だろ?」

「そうか」

「な、なんだよ、その意味ありげな顔は」

「む、そんなつもりはなかったのだが……」


 何故か、お嬢様から頬を思いっきり抓られました。


 い、痛いのであります!

 

「……本当に、アリーシャはどうしようもない妹だね。リッカ、嫌になったらちゃんと言うんだよ? この僕にね」

「え!? いや、それは――」

「私が何をしようとも――お兄様よりは、ましかと思いますが」

「それは……どう言う意味だい? アリーシャ」

「さぁ、なんでしょうか。私には分かりませんね」

「つまり、喧嘩を売ってるのかい? アリーシャ」


 又々、争いが始まりそうな気配であります!


「とりあえず、食事にしよう」


 と、ランス様はとてもいいことを仰いました。


「それは、実に素晴らしいことだと思います!」


 私は手を叩いて称賛しました。


 視線が私の方へと集まります。


「相変わらずだね、リッカは」


 と、アレックス様は仰いました。


 何だか皆さんから、生暖かい目が向けられている気がします。


 何故でしょうか?




 楽しい時間。


 皆で、美味しい食事をとります。


 笑う声。


 あぁ、私は本当に――幸せです。

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