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第34話 私、別に幼くないですよ?

 王女様を前にして、私は情けなくもあわあわとしてしまいます。


「そんな訳がありませんよ、シオン様」


 お嬢様は不愉快そうに、呟かれました。


 それにしても、まさかお二人がお知り合いの方だとは思っていませんでした。


 流石は、お嬢様です!


「確かに、そうですね。アリーシャにお友達ができるところなど、全く想像ができませんから」

「そ、そんなことは、ないかと思いますよ?」


 王女様と、メイドさんたちが一斉にこちらへと視線を向けます。


「す、すみません」


 私は慌てて頭を下げました。


 条件反射で否定してしまった自分が、本当に情けないのであります。まさかお姫様相手に、否定的な言葉を吐いてしまうとは思いませんでした。それにしても、許されるのでしょうか? なんだか、不安になってきました。


「顔を上げてください。あなたがリッカさんですね」

「え? 私のこと――知ってくださってるんですか?」

 

 言われたまま顔を上げると、王女様の顔が目の前にあり、びっくりしてしまいました。


「ええ、アリーシャはなかなか口にしませんが、この前、セリーネからリッカさんのことは伺いましたから」

「そ、そうだったんですね。恐縮であります」

「リッカさん、おいくつですか?」

「あ、はい、少し前に20となりました」


 王女様は、何故かすごく驚かれた顔をなされました。


「私と同い年で、このような幼子とは――」


 え? 私、幼く見えますか? そんなことはないかと思うのですが……。だって私はもう十分、大人の女性なのですから!


「最高ですね」

「え?」


 王女様は私をじっと眺めた後、なぜか舌舐めずりをしました。それを見て、私は背筋に悪寒が走ります。


「……シオン様、分かっていますよね?」

「勿論です。分かっていますよ、アリーシャ。セリーネからも釘を差されています。私の鋼である精神を舐めないでください」

「さっき……崩れかかっていたように思えますが?」

「気の所為です、アリーシャ」


 お嬢様は、疑いの目を王女様に向けます。


「それにしても、あなたは私の趣味を気味が悪いと馬鹿にしていましたが――」

「そこまで言ったつもりはありませんが……」

「アリーシャの女性の趣味も、どうやら同じようですね」

「勘違いしないでください。私はリッカの心を愛したから、身体も愛したんです」

「そう、それは素晴らしい愛ですね。しかし、私は身体から入り、心へと繋がります。その方が手っ取り早いですから」


 再び王女様は私を眺めます。


「リッカさんは私にとって、まさに国宝級ですね。とても素晴らしいと思います」

「は、はぁ」


 どう言う意味なのでしょうか?


 王女様は突然、後ろに振り返りました。


「あなたたちもリッカさんを見習い、後5年立とうとも彼女のような幼さを失わないよう努力してください」


 メイドさんたちが元気よく返事をしたあと、一斉に私の方を見ます。尊敬の眼差しを向けられている気がするのですが……気のせいですよね?


 私はお嬢様の袖を引っ張ります。


「どうしたのかしら?」


 お嬢様は嬉しそうな顔を私に向けてくださいます。


「あの――」

「ん?」


 お嬢様は笑顔のまま、顔を近づけてきます。


「私、幼くないですよね?」

「……」


 お嬢様は笑顔のまま、何も言ってくださいません!


「話がそれてしまいましたが、アリーシャ、あなたには期待していますよ。あの、セリーネの弟子であるあなたには」

「……それは、当然の話です」

「シオン様」


 ニーナ様が、王女様の前で膝まつきます。


「ベルエール家の当主が三女、ニーナと申します。失礼を承知でお願いがあります」

「ニーナさん、あなたたち生徒には家名など必要ありません。私はあなたを一個人として見ていますから」

「それは――失礼しました」

「構いません。それより――何かしら?」

「今すぐ、アリーシャ様と模擬戦を行わせてください」


 え?

 

「それは、何故でしょうか?」

「シオン様が期待すべきは、この私だということを――示すためです」

「それはいずれ分かることかと思いますが?」

「早いにこしたことはありません。私の実力を見ることにより、皆のやる気に火が灯るはずですから。――それに、もう皆が期待しております」


 周囲がざわつき、視線が集まっております。


「なるほど、確かに皆の期待を裏切る訳にはまいりませんね。アリーシャ、よろしいでしょうか?」

「こんなお遊びに――いったいなんのメリットがあるのでしょうか?」

「なによ、怖いから逃げるつもり?」

「どうとでも言えばいい。実力差など、いずれ分かることなのだから」

「アリーシャ、この戦いはあなたの夢を叶える第一歩となるでしょう」


 お嬢様はお姫様を半信半疑の目を向けますが、諦めたように溜め息を吐かれました。


「私に拒否権などないようですね。分かりました、好きにしてください」


 王女様はにっこりと笑みを浮かべられますと、後ろへ振り返ります。


「すみませんが皆様、前の方へと移動してください」


 その言葉で、生徒さんたちはぞろぞろ壇上の方へと向います。


「それでは、アリーシャたちはしばらくここでお待ち下さい」

 

 王女様も少しだけ前に出ました。指を鳴らしますと、いくつかのテーブルが消えてしまいます。


 そして、右手を前に突き出されると、何もなかったはずの指から綺麗な装飾品が現れました。


「あれは――聖遺物」


 お嬢様が、ぽつりと呟かれます。


 青紫色に光る装飾品が指から離れ、落下しました。床に触れた瞬間、装飾品が消えてしまいます。その瞬間、水面のように波紋が広がると正方形の大きな結界ができました。それは――高濃度の魔力を帯びていることが分かります。結界は他の魔法と違い、物質化しないことにより魔力のない人間には見えないはずですが、この結界はまた別のようです。それにしても、綺麗な結界です。まるで大きな水槽のようで――薄い青色に見えます。中はまるで水の中のように感じられました。


 王女様は結界の中からでてきます。


「この結界はどのような魔法でも破壊される心配はありません。中に入った人間の身体にも薄い膜のような結界を自動的に張ってくれます。怪我をする心配もありませんので、どうかご安心を」

「じゃあ、勝敗はどのようにして決まるんでしょうか?」

「そうですね。では、相手の体に魔法を当てること。それが勝利の条件となる――で、いかがでしょうか?」

「私は全然、問題ないですね」

「アリーシャは?」

「特に、不満はありません」

「では、それでいきましょう。試合の開始のタイミングはそちらで決めてください。試合の修了は私が判断しますが」


 お嬢様とニーナ様は中へと入られます。


 し、心配であります!

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