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第23話 家族の時間

 お嬢様と一緒に、旦那さまと奥様のお部屋に入ります。お二人は私を温かく迎えいれてくれました。それなのに、私の心臓は"ばくばく"といっております!


 旦那さまと奥様は向かい側のソファに座り、私は恐れ多くもお嬢様の隣であり、お二人と対面で座ります。


「ふたりとも、改まってどうしたのかな?」

「何だか、緊張してしまいますわね、あなた」


 お二人とも、何故かとても嬉しそうです! 今からその笑顔を曇らせてしまわないかと、不安になってしまいます……。


「お父様、お母様。私とリッカは婚約いたします」


 いきなり! いきなりですか、お嬢様!


「まぁ、アリーシャ。それは本当なの?」

「ええ、お母様。本当です」

「それはとても素晴らしい話だ」

「えぇ、あなた。素敵な話ね」


 お二人が喜ばれている? そんなの、とても信じられません。アレックス様の時とは大違いです。

 

「お父様とお母様も、賛成していただけるのですね」

「当然ですわ。ねぇ、あなた」

「ああ、当然だとも。しかし、その道は険しいだろう。それをちゃんと理解しているのか?」

「覚悟しています。学院で私の実力を認めさせ、必ず新たな家を興します。私とリッカの家を、二人が幸せになるための家を私は手に入れます」

「そうか――お前には苦労を掛けた。だから、好きにしなさい」

「はい、好きにさせていただきます」

「この先、辛いこともあるだろう。だがそれはきっと、お前を成長させてくれる。苦しんだ先にしか道はなく、悩んだ後にしか答えは見つからない。だけどもし――心が悲鳴を上げ、道を見失ったときは、諦めてもいい。逃げたっていいんだ。例え、世間がお前を嘲笑い、認めなかったとしても――私たちはお前を認めている。それにこんな私でも、お前たち二人と従者たちを支えるぐらいの甲斐性はあるつもりだ。そのために、無駄なプライドなどとうの昔に捨て去ったよ」

「いえ、無理がしたいです。リッカのために――私は頑張りたい。私たちのために頑張ってくれた、お父様のように」

「そうか……それなら、頑張ってみなさい。誰のためでもない――自分の幸せのために。私はそうしてきた。誰のためでもない、自分のためにだ」

「はい、お父様」


 あまりにすんなりと話が進むことに、私は不安となります。


「い、いいんですか? 旦那様と奥様は本当に――こんな私でいんですか? お嬢様の相手が、本当に私で――お二人は、本当にいいんですか?」

「リッカ以上に相応しい相手がいるとは、この私には思えないからね」


 そんな――あり得ないことを、旦那様は口にします。


「君がこの家を変えてくれたことを私は知っている」

「私が――ですか?」

「リッカがこの家に来たばかりの頃は、私たちもこの屋敷に来てまだ間もない頃だった。慣れない環境、慣れない家、慣れない従者たち。それなのに、私はアリーシャを独りここに残すしかなかった。契約により、彼らがアリーシャを傷つけることはないと知りながらも、やはり不安だったんだよ」

「契約――ですか?」

「なぜなら、彼らは奴隷だったからね」

「奴隷?」

「そうだよ、彼らは奴隷だった。そうでなければ、信用が出来なかった。彼らは必ず奴隷紋が刻まれる。主人の命令に逆らえなくするためにね」


 ……知りませんでした。私は本当に――何ひとつ知らず、能天気に生きてきたんですね。

 

「彼らの素性は知っている――昔はとある貴族に仕えていた人間たちだ。だから、教養もあった。それでも私は不安だったよ。だから、君には助けられた。君なら大丈夫だと――私を信じさせてくれた。そして私が想定していた以上に、君はアリーシャを救ってくれた。それどころか、私たちと彼らの間を君が取り持ってくれた」

「え? でも私――そんなことしてないですよ?」

「してくれんだよ、君は。そうして私は、再び誰かを信じることが出来るようになった。だから、今では誰一人、奴隷紋を刻まれた者はいない。それでも、誰一人この屋敷から離れようとする者はいなかった」

「それはそうですよ。だって皆、クレイワース家に忠誠を誓っているんですから」

「あぁ――そうだね。皆、最高の従者であり、私たちの家族だ」


 そう言って、旦那様は笑います。いい笑顔で。


「話が少々、脱線してしまったね。何がいいたいかと言うと、君が私たちの娘になってくれるのなら――これほど幸せなことはないよ」

「そうですわよ、リッカ。私たちはもう、あなたを娘のように感じている。ですから、それが想いだけではなくなることを、私たちは喜びます」


 こ、これは卑怯だと思います。私は再び目に涙が溜まってしまいます。必死に堪らえようとするのですが、お嬢様が私の頭を優しく撫でていただけのが――最後の一押しとなりました。

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