39 女体盛り
上海 病院。
春玲が連れ去られた翌日、迅は病室のベッドの上でスマホに届いた隼人からのメッセージをじっと見つめていた。
今日、姉探しに春玲が同行してくれる約束になっており、十時からずっとロビーで待っていたが、来ないだけではなく、電話も繋がらないといった内容だった。
隼人は春玲が誘拐されたことを知らないはずだ。この文面を見る限り、彼はまだ春玲が連れ去られたことに気づいていないようだ。迅は眉をひそめながら、少しでも隼人に心配をかけまいと、春玲が誘拐された事実は伏せて返信を打った。
『仕事の都合で春玲を同行させられなくなった。ごめんな——』
もちろん、昨日、自分が加藤らに襲撃されて暴行を受け、今は病院のベッドにいることも伝えるつもりはなかった。
スマホを見つめ、思案にふける迅。ふと、スマホの画面が光り、隼人からの着信が表示された。
『姉貴の捜索は全く進まないので、一旦、東京に帰ります。いろいろ、ありがとうございました』
迅はすぐにスタンプを送って応じた。スタンプの笑顔が、彼の胸の重苦しさとは裏腹に、何もなかったかのように見せていた。
振り返れば、隼人とは同じホテルに滞在していたにもかかわらず、一緒に過ごした時間は初日の上海空港のカフェだけだった。それ以降、一度も姿を見かけなかったが、特に気にも留めていなかった。隼人には東京のジムでまた会えるからだ。だが、今の迅の頭の中を占めているのは、隼人の姉の捜索よりも、春玲の安否だった。
沈んだ気持ちで病室の天井を見上げ、これからどう動くべきか考えていると、スマホが再び振動した。
『……加藤か……』迅の手が少し震えながら画面をタップした。
またしても、春玲のスマホを使って送られてきたメッセージだ。恐る恐る開いたそのメッセージには、文章ではなく、動画が添付されていた。
再生ボタンを押すと、映し出されたのは、全裸の春玲が艶やかで重厚な黒檀の大きなダイニングテーブルの上に仰向けで寝かされている映像だった。彼女は微動だにせず、体は緊張でこわばっているのが分かった。胸は刺身のような料理で覆われ、無惨にも食べ物の皿のように扱われていた。
テーブルの周囲には、赤いベルベットのクッションが施された重厚な木製の椅子が並んでおり、それぞれに座った四人の男たちが、箸を手にして春玲の体に視線を落としている。男性たちは順番に、春玲の股間に酒を注ぎ、口を近づけてすすっていた。
彼らの顔は映っていないが、その姿勢や雰囲気から、平然とした態度で彼女を弄んでいる様子が伝わってきた。
動画の最後は、男たちが楽しそうに騒ぐ声が響く中で、恥ずかしさと悔しさで涙を流し、震えている春玲のアップで終わった。
その部屋の異様な豪華さと不気味さを感じ取り、春玲が置かれた無惨な状況に、ただ無力感と怒りを抱くしかなかった。
迅の胸に、妹・彩が新大久保の工事現場で暴行を受けていた時の記憶が蘇った。あの時も、何もできず、ただ、ただ、見ているだけだった。
『またか……』迅は唇を噛み締めた。拳が震え、力がこもる。『何もできない……指をくわえて見ているだけだ……』
心の底から湧き上がる無力感で天井を見上げた。
『すべて……俺の責任だ……』




