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バタークッキー

作者: 大石次郎

ババちゃんはS市の爺さんが遺したマンションに最後まで1人で暮らしとった。


小3の私は孫として特に何も思わず、週一で自転車でF市のマンションに片道40分は掛けて通ってた。


「ふぅ~っ、こっから楽や~~」


ババちゃんのマンションの前は緩い坂になってて青いタイルの家の所からは左車線は曲がり角も無く、ずっと下れる。


路側帯を滑ってくのは長い道のりのボーナスステージ感があって好きやった。


「ヒナちゃん、バタークッキー作っといたで?」


「しゃっ、待ってた! コレ、オカンからキンピラに牛に見せ掛けて豚入ってるヤツ」


「おおきに。朝子にも悪い、言うといて」


「わかった!」


ババちゃんは9割くらいの確率でバタークッキーを自作してくれた。コレが美味しかった。


バタークッキーと蜂蜜入りの紅茶。ヘルメットを取って汗っぽいまま、私はご機嫌でお茶をしながら学校の事や家の事をババちゃんに話した。


「ババちゃんも何か話して」


いつものやり取りだったんやけど、


「そうやねぇ・・ババは戦争の後に産まれたけど」


ババちゃんの口からそんな言葉が出たのは思えばそれが最初で最後やった気がする。


「K橋の空爆で伯父さん夫婦が亡くなったみたいなんよ」


「ババちゃんのオジサン?」


「そう。お父さんは何も話さなかったけど、1度K橋に電車で行った時、喫茶店に入ろうって。もうそこは潰れてしまったけど、私は紅茶とバタークッキーを頼んで、お父さんは珈琲一杯で中々店を出なくて、どうしたんやろう? って心配になったの、今でも覚えてるわ」


子供の私はどう解釈していいかよくわからなかった。


大人になった私は、大阪人同士の内輪の関係性から離れたくて滋賀で就職したけど、同窓会の帰りにふとK橋で降りてみた。

わりと小綺麗な街で、小さなババちゃんと曾祖父やんを想像してみる。


哀しみを探し当てた曾祖父やんの気持ちは私には今でも計り知れんかった。そやけど、いつかずっと作り続ける事になる美味しいクッキーと出会った小さなババちゃんは上手く空想できた。


そのクッキーはきっと特別な食べ物。哀しみの欠片でできてる。きっと託されたんやろう。


「・・ほなな、ババちゃん」


滋賀に帰ったらレシピを研究しよう、私達のバタークッキーを。

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