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Iolite

作者: 霧島宇宙

短編ですが、よろしくお願いします。

 これは、一人の少年の中学3年間の恋物語である。


 私は2007年、ある寒い夕方に生まれた。幼少期はものづくりに親しみ、いつも空き箱を使っていろいろなものを作っていた、手先の器用な子供だった。しかし成長するにつれて、様々な問題も浮かび上がってきたのだ。自閉症スペクトラムによって人づきあいが苦手だったり、IQが高い代わりに数学的な考え方ができない特殊な脳の構造をしていたり、とにかく両親にしてみれば手間のかかる育てにくい子供だったと思う。

 小学生のころ人との違いが原因でいじめにあい不登校になってしまうが、この時期に博物館や本を通して学校では得られないような知識を吸収することができた。私がロボットアニメにはまってオタクになったのもこのあたりだ。ある意味この時期は、私にとってかなり重要な時期だったと思う。

 その後、いじめっ子と同じ中学校に進学したくないという一心で中学受験、合格して中高一貫校に通うことになる。しかし、この時期にCOVID-19が日本を襲う。


 一年生、コロナ禍。

 緊急事態宣言を受け、三か月間の休校になり、小学校の卒業式も中学校の入学式もまともにできず、結局まともに学校に行けるようになったのは六月になってからだった。

 初めて彼女と会ったときは、特に何も感じなかった。進学校に通う女子といえば、中肉中背、眼鏡、ショートカットの優等生がほとんど(※個人の偏見)。彼女を仮にA子とする。A子も例にもれず、そんな感じの見た目だった。

 六月といえば、中学では文化祭のシーズンだった。しかし、コロナウイルスによって文化祭は中止。青春の駆け出しはつぶされたかに思えた。

 だが、そこはさすがの進学校。生徒の英語コミュニケーション能力を育てるために県内のALTの先生を集めて、英語で様々な特別授業をするEnglish Dayという行事を開くのだ。その中の一つに「English Skit」というプログラムがあった。

 English Skitとは数人で一組になって英語でコントを作り、全校生徒の前で発表してどれが一番面白いか競うものだ。English Dayの目玉でもあり、生徒たちは二か月前から練習を始める。

 そこで出席番号の近かった私とA子は同じ班となり、ともに台本を製作することになった。A子は文才を発揮し、台本を製作する。私がそれを英語に翻訳し、班のみんなで演じる。少し違うのかもしれないが、阿吽の呼吸だった。

 結局グランプリにはなれなかったものの、一年生で準優勝という好成績を残してEnglish Dayは幕を閉じた。

 その後の席替えで私とA子は隣同士になり、先のEnglish Dayで同じ班だったこともあって頻繁に会話するようになった。授業中の勉強の相談もそうだが、冗談や世間話なども頻繁に交わしていた。彼女は、私の話をとてもよく聞き、明るく笑いながら話すのだった。。

 その一か月後、初めて二人で出かけた。二人で映画を見に行くという、ただそれだけ。しかし、映画館では特に何かがあるというわけでもないのに僕はそわそわしていた。だがその時は自分でも、その気持ちが何なのか良くわからなかった。


 2年生、文化祭。

 1年のときにコロナで文化祭が中止になったのもあって、本来は隔年で行われる予定であった体育祭と文化祭が融合された行事になった。学年同士スポーツで競うと共にステージ企画などの文化祭要素も取り入れられていた。

 「ステージ企画 参加者募集」という見出しの学年だよりを見た時、私の目は輝いていた。A子さんと一緒に出場できたら…。

 しかし陰キャのキモオタがステージ企画に女の子を誘うなんてことができるはずもなく、ただただ何か言いたげにしているだけだった。

 だが、A子はそんな引っ込み思案ではなかった。

「俺君、一緒にステージ企画に出場しよ!」

「え、…僕なんかと?」

「出よ!」

 彼女の笑顔に根負けして、私はA子、友人Bとともにステージ企画へのを決意した。ネタはコント。English Dayで鍛えられたコンビネーションで手際よく台本を書く。

 通行人が怪しい占い師とその弟子の勧誘に引っ掛かり、おかしな占いを繰り返されるというネタだった。放課後は3人で毎日練習した。そして本番前日、文化祭準備で学校は実質半日、私たちはその日の午後を最後の調整にあてた。しかし、友人は先に帰宅。その後は私とA子の二人きりだった。

 陽も傾き始め、最後の調整。二人で同じ台本を見つめた。その時心臓の鼓動が止まらなくなって気づいた。私は、彼女に人生で初めての恋をした。彼女の顔との距離、わずか15センチメートル。


 本番は大成功に終わった。大きな拍手と歓声で、私たちはステージ裏に退場した。

「ふぅ~、疲れた~」

 A子は一瞬私を見つめ、そして次の瞬間私の胸に飛び込んで抱き着いた。

「なっ…」

 私はものの1ミリすらも動くことができなかった。


 このころ私は、一つの問題に直面していた。私の将来の夢は有人宇宙船を作るエンジニア。しかし、ただ単にいい大学を目指す中高一貫校はむしろ将来の夢から遠ざかるのではないか。

 夢をかなえるために、私は中高一貫校を前期課程3年間で退学し、高校受験をすることを決意した。


 3年生、二人での遠出。

 3年生にもなると、思春期の中学生は自分の家から少しだけでも飛び出してみたいと思うものだろう。私とA子も例外ではなく、私の趣味であった鉱物が高じて、ミネラルマルシェという鉱物の大規模なバザーのような行事に誘ったのだ。彼女はそれを快諾してくれて、二人で出かけることになった。

 隣の県まで、電車で1時間と少し。その間、僕たちはお互いを見ずに手をつないでいた。

 会場につくと、いきなりたくさんの石が私たちを待っていた。エメラルドの原石、アクアマリンのルース、アメシストのジオード。

 A子いわく、ミネラルマルシェはもっとオカルティックだと思ってたらしい。しかし予想外に喜んでくれて、私はほっとしていた。

 彼女はアイオライトという鉱物が気に入ったようで、その原石を購入していた。

「俺君、新しい世界を見せてくれてありがとう!」

 A子は輝く結晶のように笑っていた。アイオライトの石言葉が「初めての恋」であることを、彼女は知らない。


 そして、卒業。

 受験勉強も大詰め。第一志望の高専、第二志望の工業高校と、対策を着々と固める。A子たちにも学年末考査が待っていた。

 高校入試当日、私は学校を公欠し、受験会場へ向かった。主要五教科と面接だった。

 結果、第一志望は不合格だった。しかし第二志望の工業高校には合格し、夢へ一歩踏み出した。

 その一週間後、私はA子を映画に誘った。そこで告白するつもりだった。

 私たちは映画館の微妙な暗がりの中で、肩を寄せ合って映画を見ていた。右側に触れるA子の体温は温かかった。

 

 そして帰り道、私はA子を呼び止めた。そして、運命の言葉を口にした。

「A子さん、好きです。付き合ってください」


 しかし、しばらくして返ってきた応えは予想外のものだった。

「…ごめんなさい」


 頭の中は真っ白だった。

「私も、俺君が好きです。大好きです。でも、春休みが明けたら、私たちは別々の学校に通うことになる。うちは進学校だから、休日にも補修が入って月に一度会うのも難しくなる。私はそんなの耐えられないし、うちの両親は厳しいから恋愛なんて認めてくれない。だから、悲しいし悔しいけど付き合えません、ごめんなさい」

 

 何も、言えなかった。その時私は、A子をそっと抱きしめた。A子は感情があふれ、泣き出してしまった。

 しばらく私たちはそのままだったが、やがてA子が私の腕の中から離れた。


「…じゃあね。」

「…うん。」


 私たちは、それぞれの家に帰った。


 現在。

 私は工業高校の機械科に進学し、日々工業を学んでいる。A子とは今もLINEがつながっているが、話す頻度は下がっている。

 私はあまり過去を振り返らないタイプだ。後悔せずに、気を新しく前を向いて生きていこうと思っている。しかし、いつかまた映画に誘えたらいいなとも思う。


 これは実際に著者が体験した物語である。

読んでいただき、ありがとうございました。

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