反撃の屍人-1
電話の受話器に真剣に語る伊賀才三。
「兄弟。四代目の葬儀が終わって、これから竹内(組)や山辰(組)が一気に動くぞ。それに兄弟は若頭(中川)と地盤が同じだから、激しい報復になる。
そうなれば兄弟のところに甚大な被害が出る。
早く決断をしないと最悪の結末が待っているぞ。」
電話の相手は一水会の相談役である中村啓二である。
共に三代目に仕えた古参であり、五分の盃を交わした盟友である。
高知を中心に四国を仕切っている。
だが跡目問題で山崎側にいた中村と、竹内を推していた伊賀とは袂を分けることとなってしまった。
そして同じ高知に組を構える中川勝美の豪仁会とのシノギの削り合いに発展している。
「そんなことはわかっちゅうちや!!おんしゃあらの勢力が勝っとるのも理解しちゅう。だけども加藤が中心になっておまんらの迎撃態勢を整えちゅうがちや。そんな中でわしがイモを引くわけにはいかんろう?」
中村の葛藤が明らかに見える言葉に、
「山崎と加藤さえ押さえておけばこの抗争は早く終わる。
兄弟もそれはわかっているだろう?
今なら一家に復縁も取り持つ。
兄弟…、お互いのメンツを守るには兄弟と俺が手打ちをすることが最善の方法だと思わんか?」
と最大の譲歩を提案する。
しかし中村は、
「兄弟、おまんは知らんがちや。
あの山崎のところの若頭の木下の怖さを。
極東一家時代は金融を扱う山崎の裏でやばい仕事でシノギを稼いでいた木下は、超一流の殺し屋や。裏切者には制裁が待っとる。
しかもその姿は一部の山崎の取り巻きしかしらん。
わしもこの前の幹部会で初めてその姿を見た。
あの竹内のところの、誰やったかな…加藤のとこの黒川が殺った…そうそう氷室ってイケイケの奴よりも冷酷で非道な男や。
傭兵上がりの本当の殺人鬼や。
もしわしが裏切ったら、即あの世行きや。
兄弟、山崎の牙城を崩さないとわしらはこの戦いからぬけれんがよ。」
と悲痛に近い言葉を返す。
「木下か…。俺もちらっとしか見たことがないな。
なるほど、山崎が最近手を出している薬のシノギを仕切っているって噂だが、それほどの男なのか…。」
伊賀がため息交じりの返答をする。
竹内組の若頭であった氷室龍二が殺され、自分の組の舎弟頭であった矢部譲二も失っている。
それは加藤組の黒川が主導したものだが、やはり木下の存在が今後の展望の邪魔になる。
「わかった、兄弟。木下と黒川さえ始末すればいいんだな?」
伊賀の問いに、
「黒川なんて加藤の後押しがあっての男だ。
一番は木下や。あれは手を出さん方がええ。一家が壊滅するで。」
と中村は怯えた声色で答えた。
伊賀は電話を切ったあと、腕組みをして思案のポーズをとる。
表の顔で言えば竹内組の氷室龍二が一家の最強ヒットマンであった。
しかし、裏の顔でいうならばやはり木下保一がそれを上回る。
(姿も見えん、そして一流の殺し屋。さて、どうしたものか…。)
伊賀の苦悩は増すばかりであった。




