彷徨う亡霊-13
龍二がアジトに到着してソファーに倒れこんだころ、ジョージは拉致られ先のマンションの一室に連れ込まれていた。
ケージから出されてボディーをがっちり拘束されたリードにつながれ半径2メートルで監禁されていた。
「さあ、猫ちゃん。あなたのためにごちそうを用意したのよ。」
女がジョージに優しく言う。
やけに艶っぽく不思議な雰囲気を醸し出す女にジョージは警戒を解かない。
「はい、どうぞ。」
女が高価そうな小鉢にうまそうな匂いを発するほぐされた魚を芸術的な盛り付けでジョージの前に置く。
(な、なんだこの食欲をそそるメシは!?)
舌なめずりが止まらないジョージだが、それをぐっと堪えて前脚をつっぱなして拒否の態度を見せる。
しかし小鉢の誘惑に体が勝手に動く。
ぺろりと一舐めすると、
(ま…まさか!?)
大好物のアレの風味を感じたジョージは一気にがっつく。
「あら、やっぱり猫ちゃんはこれが好きなのね。」
女の笑顔すら目に入らずジョージはエサに混じったまたたび(粉末)を舐める。
(ニャんだァ…この女。俺を酔わしてもアニキのことはバラさないニャ。)
意識が酩酊状態になるジョージ。
猫のまたたびとは、人間で言うアルコールのようなものである。
猫になったジョージにとってこのまたたびこそが飲酒なのだ。
(くそ、酔っちまったニャ。でもおれはなにもしゃべらないからニャ…。)
意識を保とうとするジョージだが至極の時間が訪れていることも自覚している。
「はい、次はこれ!」
女が次に出したのはチュールであった。
(ふん、ねえちゃん。それはいけねぇ。そのチュールってやつは信頼する飼い主からもらうから幸せが訪れるんだニャ。あんたじゃ役不足だ。
とっととしまってくれニャ。)
ジョージは酔いの中にいながらも、悠亜からもらうチュールこそ世界一のおやつだと確信していた。
「えっと、ホタテ味。おいしそうね。」
女の言葉にジョージの前脚が震える。
(ホタテ味だと!?)
ジョージの大好きな味である。
またたびが酒ならば、チュールはまさに麻薬。
禁断症状がジョージを襲う。
「はい、どうぞ。」
女がチュールの封を切り、その先端をジョージに向ける。
(ああ…、チュール…。)
ジョージはゆっくりと女の手の先にあるチュールに口を近づける。
今のジョージの思考は麻薬中毒者のそれ以外なく、ただ体にそのチュールを打ち込み快楽に浸りたい一心であった。
ジョージがチュールの先端に舌を伸ばしたところで、女はそれをひっこめる。
「猫ちゃん。これが欲しかったらリュウさんのところまで案内して。」
と、ジョージの心を揺さぶる。
(ねえちゃん…そりゃねえぜ…。はやくそのチュールを…)
ジョージの体は禁断症状発症寸前。
目はうつろになり、全身が痙攣を始める。
「猫ちゃん、私はリュウさんを助けたいの。
竹内の仇を取るためにひとりで戦っているんでしょう?
力になりたいの。あんな少年の体になっても竹内との盃を大切にしているリュウさんを。
ね?だからお願い。リュウさんに会わせて。」
女は懇願するようにジョージに言う
(わかった…わかったから早くそのチュールを…。)
すでに意識が混濁するジョージは女にひれ伏した。
「ありがとう、猫ちゃん。さ、お食べ。」
女の手からチュールをビチャビチャ音を立てながら接種するジョージ。
(この女はいったい何者なんだニャ?)
ジョージはちらりと女の顔を見る。
東優。
極東一家四代目、竹内久正の内縁の妻である。
ジョージはその存在すら知らなかった。




