絶望の放浪者-8
龍二は風呂に浸かりながら今後のことを考えていた。
ジョージの言う通り美佐子と悠亜を巻き込みたくはない。
だが一水会への報復は諦められない。
葛藤の中で湯船から上がり脱衣所で体をバスタオルで拭いていると、
「ねえ、翼。」
と扉の向こうから美佐子の声がする。
突然の呼びかけに龍二は動きを止めるが、ある意味このシチュエーションは覚悟していた。
いつかバレる。それがこのタイミングであったというだけだ。
そして美佐子が話し出す。
「おばあちゃんは翼が悩んでいることだけはわかるの。
でも何に悩んでいるかはわからない。
朝、ニュースでやってたヤクザとは知り合いだったの?
おばあちゃん、翼があんなに泣いてるの初めて見たよ。
だから今日一日、ずっとそのことを考えてたの。
だって昏睡状態から目を覚ましてからの翼は、おばあちゃんの知ってる翼とは別人のように感じちゃうことが多いんだもの。」
龍二は美佐子の言葉を聞きながら、複雑な想いに追い込まれた。
それは罪悪感。自分はこんなにも人間味あふれる善良な年寄りを騙しているのだ。
「でもね、翼。おばあちゃんはいつだって翼の味方だから。
翼がやりたいことをがんばりなさい。
あなたにはおばあちゃんがいつもついていることを忘れないで。
じゃあ、ご飯できたからね!はやく来ないと悠亜ちゃんに全部食べられちゃうよ!」
美佐子はそういうとその場を離れた。
龍二は次の瞬間、その場にへたり込んだ。
それは自分の正体がバレなかったことへの安堵感ではない。
自分への嫌悪感が龍二の全身を貫き立っていられなくなってしまったのである。
(俺は、ばあさんを利用して生き延びている。
最低な人間だな、氷室龍二。義理と人情の男であった竹内久正の子である自分が恥ずかしいぜ。)
自分を責める龍二。
だが、この運命を望んだのは龍二ではなく、榊原翼自身である。
(残酷な男だな、榊原翼。俺はこれ以上、お前のばあさんを騙し続ける自信がない…。いつまでこんな茶番をやらせる気だ?)
脳みその奥底にかすかに残る榊原翼の意思に問いかける。
龍二はそのまま動けず、この運命を憎らしく思いながら項垂れていた




