絶望の放浪者-6
龍二は駅に向かい電車に乗った。
流れる景色を見ながら目的地への想いを強めた。
下車し改札を抜け、10分ほど歩く。
住宅街を横切り、たどり着いた場所には多くの警察官が立っており、ピリピリとした緊張感が伝わってくる。
龍二は少し距離をとって、警察官がたむろするマンションのエントランスを凝視する。
そこには血が乾いたような黒い模様が見える。
(親父…。)
龍二が来た場所は昨夜に渡世の親である竹内久正が殺されたまさにその現場である。
若干の野次馬に混じりその現場を見つめる龍二の目にうっすら涙が混じる。
この場所には龍二も数えきれないぐらい来ていた。
竹内が本当に心を許した者しか招かれない大切な場所。
ここにいる時の竹内は、厳しい極道の世界から解き放たれたかのようにリラックスして、本来の気のいいひとりの男に戻る。
そんな竹内が龍二は大好きだった。
そして龍二より年下ではあるが、姐的な位置にある竹内の内縁の妻である優の作る料理と酒に酔いしれる至福の時間でもあった。
たくさんの思い出が詰まったこのマンションのエントランスで竹内は死んだ。
龍二の切なく悲しい気持ちが大きな怒りに変わる。
榊原翼を知っている人間には想像もできないような鬼の形相。
(必ず仇はとる…。親父…約束だ。)
龍二はそう心に誓いその場を去ろうとしたとき、黒塗りのベンツがマンションに横付けする。
降りてきたのは竹内組の若衆と優であった。
気丈にふるまう優の姿に胸が熱くなる。
ふと周りを見渡す優の目線が龍二に向けられた。
思わず周囲の人間の後ろに身を隠す。
榊原翼の姿だからその必要はないのだが、本能的に体がそうさせた。
優は直感が鋭い。それは霊感に近い。
普段は優しくかわいらしい性格ではあるが、時より見せるなんでも見透かしたような瞳は、ある意味怖い女でもあった。
だからこそ、若衆の良き相談役でもあるのだが、龍二は若干の緊張感を持って接していたのは事実である。
もちろん竹内久正の妻であるにはそれぐらいの気概は必要であろう。
龍二は静かにその場を去ろうと身をかがめてマンションに背を向けた。




