愛憎の守護神-14
松山が再び短い助走で低い弾道のシュートを右サイドに打つ。
龍二は感覚を研ぎ澄ましその方向に飛ぶ。
しかし、低い弾道はすなわち早いシュート。
まったく届かず4本目のシュートがネットを揺らす。
「そんなもんじゃこの松山光太郎のシュートは取れないぜ。」
ゴールポストの下で倒れる龍二に、松山が余裕の言葉を浴びせる。
(くそ、球は見えているのに追いつけん…!!)
龍二は日本のトップクラスのストライカーと戦っているのだ。
負け戦。
初めから勝てる勝負じゃなかった。
だがこの状況が龍二をより強くする。
あれは九州遠征の時だった。
極東一家の先方として竹内組の先頭に立ち小倉に降り立った。
九州を牛耳っていたのが特別指定暴力団の久宝会。
新幹線で乗り込んだ途端、ホームで銃撃戦が始まった。
ピリピリした状況で、龍二はそれを待っていたかのように笑顔になった。
そして久宝会の刺客を全員撃ち殺した。
戦況が追い込まれれば追い込まれるほど闘争心が溢れてくる。
それが氷室龍二という男である。
龍二は両手を大きく広げ目を閉じた。
(考えるな…感じろ…!!)
どこかで聞いたような名言を念じて松山のラストシュートを待つ。
「さ、これで終わりだよ、榊原くん。」
5発目のボールをセットして松山が言い放つ。
龍二は精神を集中させ、それを待つ。
「じゃあ、最後はとっておきの一発で決めてあげるよ。」
松山は長めの助走で思い切り足を踏ん張り、
「くらえーーーーー!!イーグルショット!!」
と叫びながら足を振り抜く。
地を這うような低めの弾道の豪快なシュート。
龍二は目を見開きそのボールに視線を合わせた。
凄まじい勢いのボールが地を這い、そこから上昇してくる。
龍二はその軌道をとらえた。
真っすぐ自分の方、すなわち真ん中を狙ったシュート。
龍二の鋭い眼光がはげしい回転を唸らせているボールに焦点を合わせた。
両手を前方に伸ばし迫るシュートに向かっていく。
両掌にコンタクトした瞬間、激しい圧力と摩擦で弾き飛ばされそうになる。
必死に踏ん張る龍二の手からボールがさらに上昇するべく凄まじい抵抗を見せる。
(うおおおおおおーーーーー!!!!!)
龍二はそれを必死に抑え込めるため全集中をボールに向ける。
しかしその勢いは龍二の全身を押し返す。
(くそったれがぁーーーーーー!!!)
押された体を一気に引き戻しボールを弾いた。
弾かれたボールは松山の足元にコロコロ転がっていく。
その瞬間、フィールドを囲む観衆からため息が漏れる。
その中で悠亜が100m12秒台の爆走で龍二に走り寄りダイブして抱き着く。
「おい、榊原くん。話と違うじゃないか?」
松山が苦笑いで言う。
(カレー2杯分の借りはいつか返すさ。)
龍二はキーパーグローブをその場に投げ捨て、悠亜を引き剥がしフィールドから出た。
フィールドを一歩出たとき、
「楽しそうだね。氷室さん。」
突然現れた謎の男。
(学校まで来るのか…。)
龍二は身構える。
ただでさえ松山との対決で目立つ行動をしてしまったことを後悔しいていたのに、こんな場所で戦いなどしたらそれこそ大問題だ。
そんな龍二の気持ちを察したかのように、
「氷室さん。時代が動くよ。
あなたも戦いから逃れられない。覚悟しといてよ。じゃあ。」
と言って背中を向けて去っていく。
(戦い?)
この時、龍二はまだ自分の運命を知らずにいた。
龍二が榊原翼の体を借りて生き返った意味。
それはこれから起きる戦いのためであるということを…。




