深淵の追跡者-16
渾身のストレートを打ち込む龍二。
今度はその拳をしゃがんで交わす男。
龍二は狙ってたかのようにストレートの肘を曲げ、男の脳天に振り落とす。
男は寸前で首を曲げ、龍二の体重をのせたエルボーは男の肩にヒット。
結果的に深くめり込むクリティカルヒットとなった。
(よっしゃ!!)
龍二は大きな手応えにテンションが上がる。
「いてて…。これは効いたよ…。」
男の目つきが変わる。悪意と憎悪にもとれる鋭い眼差し。
黒目が大きくなり、龍二の背中にゾクリとした震えが襲う。
男の発する悍ましいオーラに龍二は今まで感じたことのない戦慄が走る。
これまで命を懸けた局面を何度も乗り越えてきた龍二が、一瞬にして死を覚悟するような圧力。思わず距離を取り身構える。
(なんだこいつ!?)
まるで得体のしれない異形の存在を目の前にしているようなざわつきに龍二は戸惑う。
【お前はなにもんだ?】
龍二はさっと殴り書きを見せる。
答えずにこちらを睨む男。
すぐさまメモを千切り新しいページに、
(なぜおれのことをしっている?)
と書き見せ、
(なぜおれにつきまとう?)
と続けて書いて見せた。
「氷室龍二。お前は使命を持ってこの世に再降臨したのだ。
それがなんであるか…。それはじきにわかる。
その使命を果たすために存在しているのが…私だ。」
男が静かに答える。
そんな男の声がまるで死の呪文のような恐怖を龍二に与えていた。
【だからお前はなにもんだ?】
龍二の問いに、
「今お前が知ることではない。」
と男は言うと一瞬姿が消えた。そして龍二の目の前に現れた次の瞬間、激しいミドルキックがみぞおちに食い込む。
2メートルほど飛ばされた龍二は地面に倒れ、激しい痛みの中、胃酸をまき散らした。
「強くなれ氷室龍二。お前が強くならねば使命は果たされぬ。」
男はそういうと黒い霧に囲まれ姿を消した。
(ありゃ、俺とは次元の違う深淵のものだな。悪魔ってとこか?)
龍二は痛む体を無理やり起こし、口元の嘔吐物を袖で拭い、男の残した恐怖心と戦っていた。




