深淵の追跡者-14
その日は悠亜を客間に寝かせ、翌日、美佐子は威風堂々と悠亜を連れて家に乗り込んだ。
その時の悠亜の父親は気弱などこにでもいるような普通の中年男性であった。
しかし、その酒癖の悪さに悠亜の母は家を飛び出し帰ってこない。
そして仕事や様々なストレスを悠亜への暴力で発散していた父親は、美佐子の説教で涙を流した。
そして美佐子と父親の間で、ある約束が交わされた。
それは、父親が酒を完全に辞めるまで悠亜を家には帰さないというものだった。
もし、約束を反故にするようなら虐待事案として警察に訴えるという厳しい言葉も付け加えられた。
銀行の役職という地位のある父親は、それに従う他なく、むしろ美佐子が脅迫しているような圧倒的なプレッシャーを与えていた。
龍二の放ったリバーブローをもなかったことにするその勢い。
美佐子の完勝での凱旋であった。
だが龍二はその結果に違和感を覚える。
(ばあさん…どういうことだ?)
悠亜が大きな荷物を抱えて美佐子の車で帰宅した光景を見た時の龍二の思考である。
「悠亜ちゃんはしばらくうちで預かるから。もちろん翼とは部屋は別よ。
悠亜ちゃんは1階の客間を自由に使って。学校の方にはおばあちゃんがちゃんと話するから、二人とも安心して!」
おちゃめな笑顔で言う美佐子に、
(保護施設とかあるだろう?)
と龍二は声に出せない憤りを目でぶつけた。
そんな美佐子に、
「ありがとうございます。」
と悠亜が深々と頭を下げる。
その肩をさすりながら美佐子は笑顔で応える。
その光景を見た龍二は悠亜の目に変化を感じた。
今までの悠亜の目は笑顔であってもなにか闇を抱えたような雰囲気を醸し出していた。もちろん今となれば原因がわかったから気づいたことなのだが、今はその闇が消えていた。
不安と恐怖から逃れた悠亜は、今までよりも可愛くキラキラしている。
(チッ…そんな顔すんじゃねぇ。)
龍二は、悠亜の顔をそれ以上見ることが恥ずかしくなり自室の2階に上がった。
「翼くん!あとで部屋に遊びに行くねー!」
悠亜の明るい声を背中に龍二は不思議と穏やかな気持ちになっていた。




