深淵の追跡者-13
龍二は悠亜の手を引いて小さな公園にたどり着いた。
たいした距離ではないが、その間に様々なことを考える時間が龍二にはあった。
もともと龍二は悠亜の思い込みでトラブルに巻き込まれた。
だからはっきりと「二度と近寄るな」と言ってやるつもりであったし、それでも理解してもらえないようなら、非常にひどい言葉で攻め立てようとも決意して悠亜の家の前に立った。
しかし、現状は悠亜を連れて逃げている。
少し荒れた呼吸を整えて、悠亜を見る。
「私が悪いの…お父さん、ごめんなさい…だから乱暴しないでえええええ!!」
突然、悠亜がトランス状態に陥る。
龍二は思わず強く悠亜を抱きしめた。
(落ち着け!大丈夫だ!)
言葉にはできないが、この時の龍二はまるで自分の妹を慰め励ますような心境になっていた。
「翼くん…?」
悠亜が自分を取り戻したかのようにつぶやく。
(よし、落ち着いたな。さて…これからどうする?)
龍二は悠亜から離れ、これからの行動を考えていた。
そして、深く溜息を吐く。
(結局…頼れるのは…ばあさんだけか…。)
自分の無力さを痛感しながら、悠亜を自分の家に連れ帰る。
最初は困惑していた美佐子だったが、龍二の筆談が進むにつれ、普段は穏やかな顔が硬直してくる。
それは明らかに怒りの表情。
「自分の子供にこんな暴力を振るうなんて…許せない!」
そう憤った美佐子は、
「悠亜ちゃん。もう大丈夫よ。おばあちゃんと翼で守ってあげるから!」
というと、悠亜を抱きしめた。
美佐子の腕の中でワンワン泣く悠亜。
この時、龍二は悠亜のことが少し理解できた気がした。
普段は文武両道。容姿端麗。彼女に好意を持つ男子生徒も多い。
だが父親からの度重なる虐待の日々に、明朗活発な悠亜の人格にもうひとつの闇を生んだ。
それが【被害妄想】ともいうべき潔癖なほどの恐怖感。
商店街であのチンピラと目が合っただけで生まれる極度な危機感。
深い闇の中で眠っているもうひとりの悠亜が目覚めるのだ。
(お前も苦労してんだな…。)
龍二は普段は笑顔がまぶしい悠亜の泣きじゃくる姿を見ながら、人生の複雑さを知る。
「明日、おばあちゃんがお父さんと話してくるから、悠亜ちゃんは安心していなさい。」
美佐子の決意のこもった言葉に龍二は少し不安になったが、それ以上に、
(ばあさん!頼むぜ!)
との期待がそれを上回った。




