深淵の追跡者-12
龍二は走りながら怒りがこみ上げる。
(悠亜…!!お前の勘違いで俺は殺されかけたぞ!!)
悠亜の言動を思い返し、様々なことが結ばれていく。
チンピラと目が合っただけで危機感を覚え、それでいて龍二が謎の男に襲われた時にはまるで慣れたように対応していた。
まるで違う人間のような二面性を見せる悠亜。
龍二は、怒りの中に戸惑いを持ちながら悠亜の家の前に立った。
閑静な住宅街の中で、少し歴史を感じる木造平屋建ての一軒家。
悠亜の容姿からは想像ができない住処である。
蝶番の壊れた鉄製の門を開け玄関の前に行くと、家の中から男の怒号が聞こえてきた。
「おい!!てめえ誰のおかげで飯が食えると思ってるんだ!!」
「ごめんなさい、お父さん!ごめんなさい…!!」
このやり取りのあとガシャンという破壊音が聞こえる。
龍二は玄関から庭に回り、縁側からそっと家の中を覗く。
父親らしき男が悠亜の髪の毛を掴んで壁にぶち当てている。
悠亜はボロボロに泣きながら許しを乞っている。
(おいおい…!!)
龍二は堪らずサッシを開けるが鍵がかかっていて開かない。
意を決した龍二は力いっぱい分厚いガラスを殴る。
しかしびくともしない。
グシャっという拳がつぶれる音が聞こえる。
(榊原翼ああ!根性見せろやあ!)
もう一度、渾身の力で拳をぶつける。
龍二の拳から血しぶきが噴き出す。
その直後、ガラスにヒビが入る。
龍二はその隙間から内側に手を突っ込み鍵を開け、家の中に入った。
「なんだお前は!?」
父親がドスの利いた声で龍二に放つ。
「翼くん?」
悠亜が驚いた顔で言う。
(こいつ酔ってんな…。)
龍二が父親を見て怒りがこみ上げる。
そして血まみれの拳を構え臨戦態勢に入る。
すると悠亜が間に入って父親にいう。
「お父さん!翼くんには乱暴しないで!!」
小刻みに震える悠亜の身体を見て、龍二の怒りは頂点に達した。
銀行のエリートだと聞いていた悠亜の父親だったが、その姿はかけらもなくただの筋肉質の細身の中年であった。
「お前が悠亜の男か!?他人がしゃしゃりでるんじゃねぇ!」
父親が恫喝をぶつけてくる。
(とにかく悠亜を連れ出さないとな…。)
龍二は悠亜の肩をそっと触り、一気に父親の懐に入る。
少しひるんだ父親はとっさに拳を出すが、龍二が早い。
そして渾身のリバーブローを完璧に打ち込んだ。
「ガッ…!!」
父親が叫びにもならない声を出す。
しかし龍二は続けて同じ個所にショートレンジのリバーブローをもう一発入れる。
崩れ落ちる父親。
龍二は悠亜の手を握り、外へと脱出。
困惑する悠亜はその手に抵抗もできず、龍二の誘導に従うしかなかった。




