深淵の追跡者-8
それから数日、男は姿を現さない。
龍二は常に単一電池をポケットに忍ばせ握力をアップさせたパンチの準備は怠らない。
そして毎日の筋トレやシャドーボクシングで戦いの態勢も取っていた。
そんな中、悠亜に対する気持ちの変化が龍二におきていた。
男に完膚なきまでにやられた時、一生懸命に自分を介抱し、警察にも必死で対応してくれる渾身的な姿に龍二は少しの好感を持ち始めていたのである。
(少しはやさしくしてやるか。)
龍二は毎朝、待ち構えている悠亜と一緒に通学し、悠亜が話すくだらない会話に頷く素振りで心を開いていった。
そんなある日、悠亜が学校の用事で一緒に下校できなく、龍二は一人でいつもの帰り道を歩いていると、足を折ってやったチンピラが、2人の仲間らしき男たちとまるで自分を待ち構えていたかのように道をふさいだ。
「よう、兄ちゃん。こないだはようやってくれたな。」
チンピラが松葉杖をぶん回しながら龍二に詰め寄る。
一緒にいる男2人は屈強なボディーを見せびらかすようなサイズピッタリのスーツで威嚇する。
(これはまずいな…。)
龍二はポケットの乾電池を握ってはいるが、この状況を乗り切る手段を必死に考えていた。
氷室龍二の頃ならば、こんな奴らなど襲るに足らないが、今は榊原翼の体である。
「ツラかせや。」
チンピラの言葉で表通りから、人気のない裏路地に誘導される。
龍二はひとつ大きく息を吐いた。
(考えても一緒だな。やるしかねぇ。)
腹を決めた龍二は拳を構え、戦いの態勢をとった。




