深淵の追跡者-6
男はニヤリと笑みを浮かべて左フックをぶん回す。
龍二はそれを交わして反撃に転じたいが、間髪入れず右ストレートが目前に迫る。
再び身を引いて間合いを取るが、さらに大きな左ストレートが迫る。
龍二はそれも左に動いて凌ぐ。
この男が繰り出す一連の攻撃に、龍二は苛立ちを感じていた。
明らかにわざと大きな攻撃を出して龍二に交わさせている。
(このやろう…!!)
苛立ちが怒りに変わった龍二は一歩踏み込み間合いを詰める。
動体視力は龍二のものを引き継いでいるから攻撃は見えるが、運動神経は榊原翼のそれである。
相手の懐に入ってもダメージを与えられるような一撃は期待できない。
せっかく詰めた間合いも男のミドルキックで弾き飛ばされる。
2メートルの距離まで離れた。
(この非力な体でやれることは…、一つだな…!!)
龍二はもう一度左右に体を揺さぶりながら右の拳を強く握る。
拳の中には、ポケットに用意していた単一の乾電池が仕込まれている。
これで握力が増してパンチ力が上がる。
男のハイキックをかがんで交わし懐に入り、左脇に渾身のボディーブローを叩きこんだ。
男の体が九の字に折れて少し態勢がぶれる。
リバーブロー。
肝臓の位置に向かって衝撃を与えることにより大きな痛みを与えることができることや、肝臓周辺が鍛えにくい部分であることなどから、効果的な技だといわれている。
それを追いかけるように男の顎に、スマッシュを入れる。
人間の急所である顎に向かって一直線に向かって打ち込めるパンチであり、命中すれば非常に攻撃力が高く有効なパンチである。
龍二の連続攻撃で男は大きく後退し態勢を崩した。
(よし…!!)
龍二は大きな手応えを感じ、さらに追い詰めるために一歩踏み込んだが、ここでこの後の攻撃がないことに気づく。
渾身の2発であった攻撃だが、相手が手を抜いた状態での奇襲だった。
これ以上の攻撃は今の龍二にはない。
「やってくれるじゃない。氷室龍二…。今のは痛かったよ…。」
男がフラッと立ち、位置を変えると姿が霞むほどの速さで間合いを詰め、龍二の顔面に強烈なストレートを打ち込んだ。
龍二の体が宙に浮く。意識は飛ぶ寸前。
そこにとどめのボディーブローがみぞおちに食い込む。
龍二は視界が真っ白になり一気に意識を失い、そのまま地面に叩きつけられた。




