深淵の追跡者-5
翌朝、痛む両腕を重く感じながら登校を開始。
家を少し離れたところで悠亜が待っている。
「おはよーーー!」
元気な悠亜に龍二はいつものように無視する。
「待ってよぅ!」
後ろをついてくる悠亜。
だが龍二の意識は悠亜ではなく、その後ろに仁王立ちしている昨日の男である。
「やあ、榊原翼くん。いや、氷室龍二さんって呼んだ方がいいかい?」
男の言葉に龍二は意外と冷静に受け止めていた。
(やはり、榊原翼ではなく俺が目的か。)
昨夜、この男のことを考えていたが、結局はこの答えに行き着く。
もう、どんな状況も受け止められる。
この男は、自分と同じ命の領域を超えた【深淵の者】であると確信した。
「誰?」
悠亜が不安そうに聞く。
龍二はカバンからノートを出し、ペンで殴り書く。
【あさからごくろうだな】
それを見た男は、
「じゃあ、始めようか…!!」
と間合いを詰める。
龍二は悠亜の背中を押して去るように促す。
「え?え?」
悠亜は戸惑っている。
次の瞬間、男の右ストレートが龍二の顔面に軌道を乗せる。
(ちっ…!!)
龍二は悠亜を突き飛ばしその拳を交わす。
「私、人呼んでくる!」
悠亜が青い顔をして走り出す。
(さて、今日は昨日のようにはいかないぜ…。)
龍二はガードを固め臨戦態勢に入る。
「いいね、氷室さん。察しがいい。」
男のさわやかな顔が悪意に満ちたそれに変わる。
(どこまでやれるか…。)
龍二は男の目をにらみ返していた。




