龍の翼-10
龍二が目を覚ますと、病院のベッドであるとすぐにわかった。
脇腹に痛みが走る。
そして傍らにはスーツ姿の竹中が立っていた。
「リュウ、なんであんなことしたんだぁ!」
明らかに顔が怖い。
「おっちゃんは待ってる人がいるだろ?
俺は自分で親を殺しちまったから死んでも誰も悲しまないさ。
どっちの命が大事か、おっちゃんでもわかるだろ?」
龍二は笑顔を作って言う。
「ばかやろう…!」
竹内が何かを噛みしめるかのように言葉を絞り出す。
「俺は日本に帰って来たことを後悔しているんだ。
あのままアフガンで戦っていた方がよかった。
そうすれば自分らしく生き、自分らしく死んでいけたんだ。」
龍二の言葉に、
「リュウ。シャバに出たら俺のところに来い。
いや、俺が迎えに来てやる。おめえは俺の命の恩人だ。
あの久宝組の刺客から命を救われた。
いいな?俺がおめえを面倒見てやる。」
竹内はそう強く言い足早に部屋を出た。
龍二は脇腹をさすりながら窓の外を見た。
(シャバか…。)
心の中に今まで感じたことのない不安を感じた。
この日本で自分はどうやって生きていけばいいのか?
厳しい現実が待っていることは若い龍二でも理解できた。
そんな龍二も1年後に、恩赦が与えられ仮釈放が決まった。
出所の日、厚い刑務所の門を抜けると、そこには竹内が立っていた。
「おっちゃん?」
竹内は龍二に歩み寄り、
「約束通り、迎えに来たぞ。」
と言い黒塗りのベンツの後部座席に誘う。
そしてたどり着いたのが竹内が仕切る組の事務所。
4階建てのビルの最上階に通された龍二は、畳の部屋に作られた宴席の中央に誘導された。
正面に竹内が座り、その周りを若衆が見守る。
目の前に置かれた盃に酒が注がれる。
「リュウ、その酒を受け入れれば俺とおめえは親子だ。飲み干せ。
これが俺たちの世界の契りの証だ。
親子の盃を交わせ。」
そういうと竹内は盃をぐっと飲み干した。
龍二もそれを真似て、盃を飲み干す。
そしてもうひとりテーブルにつく男。
「こいつは俺の弟の剛だ。組の若頭を任せとる。」
竹内が紹介する。
「龍二。兄貴を守ってくれて感謝する。俺とも【兄弟の盃】を交わしてくれ。」
剛の言葉で、龍二の盃に酒が注がれる。
龍二は迷わずその盃を啜り飲む。
こうして龍二は竹内組組長と親子の盃、若頭と兄弟の盃を交わし渡世の世界に足を踏み入れた。




