猫の恩返し-12
ジョージは混濁する意識の中で不思議な感覚にいた。
ぼやけていた視界がはっきりとしはじめ、思考は動いているのに、まるで時が止まったかのような静けさがジョージを包んでいた。
そして宙に浮いているような虚脱感。
ジョージは悟る。
(俺…死ぬニャ。)
そう思うと二つの感情がジョージに問いかける。
加藤は撤退している。美佐子を守れた安堵感。
しかし喧嘩に負けた。伊賀の特攻隊長である矢部ジョージがこんな奴らに屈するのか!?
ジョージの中の極道の血が騒ぐ。
この抗争で自分は何もしていない。
四代目の仇が目の前にいる。
ジョージの目が鋭くなる。
極道としての本能がジョージの四肢を奮い立たせた。
自分の体から血が滴る。
(加藤…加藤おおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!)
ジョージはまるで電光石火の如くダイブした。
そして加藤の首元に牙を入れた。
「グあ!?なんだこの猫は!?」
加藤は驚きを露にした後、自分の首から血がしたたり落ちる感覚に焦りを見せた。
組員二人がジョージを引き剥がそうと両脚を引っ張る。
それに耐えるように牙をさらに深く刺し、爪を立ててしがみつく。
しかし爪の掛かりが浅い。それは悠亜が毎日ジョージの爪を奇麗に整えてくれていたから。
だが猫とは思えない力で加藤の首を離さない。
ボキッ
ボキッ
ジョージの脚の骨が折れる。
それと同時に、
「あ〃------!!」
加藤の断末魔の叫びの後、首から血が噴水のように噴き出す。
そこでジョージは力尽き牙が外れ、引っ張られている力に任せて宙に放り出され、アスファルトに叩きつけられコロコロと転がる。
辺り一面血の海と化した榊原家の玄関前の通り。
その中心にいるのは首から大量の血を流し続ける一水会副会長の加藤茂雄の屍であった。
遠くでパトカーのサイレンが聞こえる。
「ジョーくん…。なんで…。」
美佐子がジョージに駆け寄り、涙を流しながらその小さな体を膝に抱いた。
(お母さん…お母さんは温かいなあ…お母さん…お…かあさん…このまま…ここで…眠りたい…ニャ…)
矢部譲二。母のぬくもりの中で息を引き取ったその顔は縁側で昼寝をしている穏やかな猫の寝顔であった。




