猫の恩返し-8
しかし龍二には茉莉に対してはっきりさせなければならない事があった。
【なぜ矢部譲二をハメた?】
文字を書く龍二の手元を見ていた茉莉の顔色が変わる。
ジョージは茉莉の誘いで出向き山崎組に殺されたのだ。
「違うの…!!」
戸惑いの震えを見せる茉莉。
龍二は静かに次の言葉を待つ。
「まさかジョージくんが殺されるなんて思いもよらなかった…!!
私はただ伊賀組の幹部だから極東一家との取引に使えるって…。
従うしかないじゃない!?
もちろんジョージくんには申し訳ないと思ってるわ。
でも仕方なかったの!!
言われた通りにしなきゃ店を潰されてしまう…!!」
感情的になる茉莉。
常に冷静で落ち着いたイメージしかない茉莉の初めて見る姿。
ただ龍二の感情は失望に近い喪失感。
山崎に従わなければ店が潰される…これは本当。
ジョージが殺されると思ってもみなかった…これは嘘。
龍二の愛した茉莉の姿はそこにはなかった。
店を守るためにジョージを売った、これが真実である。
【わかった。もう聞くことはない。
山辰か竹内の優さんのところで隠れていろ】
と龍二が話を打ち切った。
「それはできない。私が逃げたら店は終わっちゃうわ。」
茉莉はそう言うと力強い眼差しで龍二を睨む。
(ああ、その瞳だよ茉莉。
俺はそんな強い女に惚れたんだ…。)
龍二の感情は再び茉莉への愛情であふれ出した。
【大丈夫だ。一か月だけ姿を消せ。その間にケリをつけてやる。】
龍二の言葉に、
「あなたって何者?どこかで会ったことある?」
グルグルに巻かれた顔の包帯の下で自信に満ち溢れた龍二の態度に茉莉が擬視する。
でも龍二は自信に満ち溢れているわけではなく、『この女のためなら死ねる』
という確信がその表情にさせていた。
【あんたと会ったことはない、そして俺は何者でもない。
だが竹内久正の意志は継いでいる。だから安心しろ。
必ず成し遂げる。】
茉莉は少し表情を緩ませて、
「まるで龍二みたいなこと言うのね。
なぜだかあなたの言葉に安心してしまう。」
茉莉は山辰組を頼るといって席を立った。
「それじゃあ…さよなら。」
茉莉が静かに言う。
ゆっくり頷く龍二。
(さよなら…茉莉。)
茉莉が病室を出て行くまで目をそらさず見送る龍二。
これが今生の別れであることに間違いはない。
自分に愛というものを教えてくれた唯一の女。
(ありがとう…茉莉。)
心で寂しくも本気の礼を茉莉に向けた。




